10/16,17,18

@pandaya77

プロローグ

 20――年 10月16日。

 頬を撫でる冷たい風が心地よかった。

 まだ色濃く雨の匂いが辺りを包んでいたが、もう空からは一滴の雫もない。黒々しい雲が生き物のように蠢き、もの凄いスピードで流れていく。それらはすでに自らのやるべき使命を果たし、どこかへ去ろうとしていた。その黒い雲の合間には突き抜けるような蒼色が見え隠れしている。

 陽はまだゆっくりと昇り始めたばかりで、万物の陰影を細長く模っていた。うーんと背を一つ伸ばして、私の影もその仲間の一部に加わる。

 昨夜の台風は何気ない日常を一変させた。今は近くの道路を往来する自動車のエンジン音と水溜りを跳ねる音が時折耳に届くばかりで、普段よりも静かな朝だった。

 天気予報は曇りのち晴れ。

 滑り込みセーフというところだろうか。そのとき、始まりを告げる合図の音が天高く翔け抜けていった。それは空気を震わせて私の鼓膜を伝い全身の細胞を巡っていく。そして鳥肌を立たせた。そう、体は正直だ。忘れていない。ちゃんと覚えている。わかっていたはずなのに、改めて思い知る。

 それは私にとって、この世で最も嫌な三日間の始まり。

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