第7話 インターハイ予選①

5月、インターハイ予選がいよいよ始まる。

と言っても、健一たち一年生にとってはこれが初めての大会だった。

当然シード権などは得られていない。

インターハイ予選は、ブロック予選、一次予選、二次予選、決勝リーグ戦(団体戦はトーナメント)の4つに分かれていて、最後まで勝ち抜いた選手がインターハイへと出場することができる。


(結局、インターハイ予選までに5人集めるのは無理だったなー。俺らは個人戦だけか。)

健一は、団体戦の準備をする女子たちをうらやましそうに見ていた。

「小川、絶対に新人戦までにはあと3人引き入れるぞ。」

「うん、やっぱり団体戦も出たいもんね。」

小川君も張り切っていた。

この2人は、基本的には仲がいい。あのダブルスでの一件の後も、それは変わらなかった。

しかし、ダブルスを組んだとたんに不穏な空気が流れだす。そして、健一はもうパートナーとして小川君を見ることはなかった。


ここで、団体戦の説明もしておこうと思う。

高校の団体戦は、第一ダブルス、第二ダブルス、第一シングルス、第二シングルス、第三シングルスの順で行われる。その中で、第一シングルスだけがダブルスとの兼ね合いができない。

つまりは、最低で5人、最高で7人出場できる。


そして、バドミントンの大会は、基本的に二日以上に分けられる。

ブロック予選では、団体戦、個人戦で二日に分かれている。

今日は団体戦なので、健一たちは試合がない。

監督に至っては、ずっと椅子に座ってぼーっとしている。

それもそうだろう、ブロック予選はそのほとんどが初心者だ。一年生とはいえ、羽束師高校に集まった女子たちが負けるはずがなかった。


”羽束師高校の女子に強い選手が集まった”という噂は、すでに広まり始めていた。

しかし、それはせいぜい団体戦でベスト16に入る高校までだろう。

ブロック予選に出るような高校からしたら、強い選手がどこに行こうがどうでもいいのである。

彼らの目的はあくまでも”予選突破”なのだから。


実際、羽束師高校女子は圧倒的な強さでブロック予選を突破した。

全勝だった。いや、誰も10点以上の失点を許さなかった。

相手の高校の選手はこんなに強いなんて聞いてないという表情だった。

それは、絶望。

これまでの三年間の努力を踏みにじられるような、圧倒的な力の差を感じていたのだった。


(こればっかりは、相手に同情するよ。)

健一は、なんともいたたまれない気持ちになった。

それと同時に、この一年生のみの新勢力が、この地区の勢力図をかき乱すことを、静かに予想したのだった。

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