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―――島村佳代子(38)


「船全然戻ってこないじゃない」そんな声を上げたのは私だけではなかった。

ザワザワと色々な声が上がり始めた。


「携帯も繋がらないし」

「晋さん船出して見に行って来てよ?」

「しかし、俺の船じゃこの雨の中耐えきれるかどうか」

「そんな事言って晋さん早くお酒飲みたいだけだろう?」


「ハハハばれたか。酒人生が始まって40年、俺はこの先も酒人生で行くつもりだからな」

「まぁでもこの雨じゃ、もう少し待ってみた方がいいだろうよ」

 そんなやり取りを聞きながら、待てども待てども船は戻っては来ない。


「晋さん、大分小雨になってきたからちょっと見て来てよ?」

「そうだな、いくらなんでも遅すぎる。なにかあったのかもしれないしな」


数十分後。

晋さんは船から逃げるようにして降りてくるなり、「大変だ」と慌てめいて叫んだ。

「大変だ座礁して沈没したのか船がみあたらない、そんでいくつかの死体があって……いいから早く救助要請を出せ」

船に乗れなかった人たちが一斉にザワつき始める。

「電話がつながらないんだ」

雨がまた強く降り始めて、風が強く、台風がすぐ近くまで来ていることを指していた。

「家から電話をしてみたが駄目だった、繋がんねえ」

「この雨の影響で?」

「いやそれは分からねえ」


「ぎゃあああああああああ」叫び声がする小さなトイレに簡易式のトイレに入ると、そこには血だらけのおじさんの姿があり背後から何者かに包丁で刺されて死んでいた。


「だ、だだだだ誰がこんな事を……」

「武村のじいさんじゃねーか、おい大丈夫か?」

「救急車を呼ぶんだ」

 私はその遺体に近づき脈を測る。

 そして左右に首を振った。

「警察だ、警察を呼べ」

「それが駐在さんもみあたらないんだ」

「駐在さんならさっき船に乗っていったが?」

「こんな事になって大変な事になってしまった」


 こんなのどかな場所で殺人事件が起きてしまった。

 そして次の瞬間、小さな港の電気が消えてしまったのだ。

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