第5話 おじぎ鳥とかささぎ
五 おじぎ鳥とかささぎ
「蜜柑の間」管理室のおばさんは、確かにそう言っていた。
ステージをバックに直進すると、あの建物がある。もう一つは、「古楽の間」
草野風さんと背高さんは泊まっているのだろうか。
下から上を見上げると、草野風さんが付けていた染め布がドアに結ばれていた。
僕は、少しほっとして、ゆっくりと梯子を登って行った。
部屋には、朝には無かった小さなテーブル、その上には
僕は葦編み帽を外し、荷物を下ろすと、衣装のヒモを緩め、ヒザを床に。
そのまま体の力が抜けてきて床に貼り付くと、僕は考える暇も無く眠った。
まだ、薄暗い空の中、僕はふと目を覚ました。
窓が少し開いていて、外はまだ静かだ。テーブルの上のマッチ箱から一本取り出し、
部屋の中は、殺風景かと思いきや、壁には、蜜柑の絵が一つ二つと描かれた木板が枠の中にバラバラに並べらた物が飾られてあり、その向かいの壁には、花枝の花びらに
その下に数枚カードが吊るしてあり、一枚づつに「水」「林」「月」など、漢字が描かれていた。
花枝の絵には
「洋洋絵文字千字文字創リシ、千思万考、一ツ撰ビシ、一文字当テヨ 。」
一文字当テヨ。と言う事は、
すると、あの蜜柑の木板は?板は全部で十六枚。
バラバラなのも何か変だ。木枠の中には、一枚だけ、扉が描かれていた。
扉には、「整頓」と小さく記してあり、僕は、枠を持ち壁から外すと床に置いた。
扉の絵を一枚取り、蜜柑の木板を上、横、下へとスライドさせて、蜜柑の数づつ順になる様スライドし続けた。スライドさせながらも、洋洋絵文字クイズが気になる。
パンフレットを出して、早く確認してみたいのだが、どう見ても文字数が多い。
蜜柑を数えながら、十四枚目を並ばせた。
あと一つ。
また列をずらし最後の一枚、蜜柑の木板を1から15まで順に並び終えると、ドアがノックされた。
管理人さんだ。
「ご準備、して下さい。それと、二千五百円ね。集合致しましたら出発しますので。」「出発?」「オハヨウゴザイマス。ええ、下で持ってますので。」
「オハヨウゴザイマス。」
が、テーブルの上にあるマッチ箱にヒジを付き、頭をかしげる人の絵が描かれていたのに気が付くと、大きく深呼吸し、今日一日の充実を願い
管理人室のドアを叩くと、おばさんが出て来て、もう来たのかと
「身支度はされていますが、お身体調子整えて下さい。水田まで参るそうですので、
僕は、二千五百円払い、竹小屋に歩いて行き、水路林に立っていた。
水田までの道のりは、何か体力的に覚悟がいるのかと少し不安になり、体を解した。
「どーぞぉ、どーぞぉ。」
おばさんが呼んでいる。
管理室前に戻ると、背高さん、草野風さん、河童が二人、薄暗い空の下、四人集まっていた。河童は、大きな台車を引き、背にはカゴ、収穫の準備万全といった所だ。
「水時計まで行かれましたら、案内人が参りますので。
昨日、
「俺は、
「
「ゴンタが、いたかぁ。」
「
「あのぉ雨には、面食らぁたぁ、火ホドも消えて、飯がおしゃかになる所よぉ、木車ぁ走り使っとぉってぇ、俺さぁ頭に皿乗せたぁさぁ、
「雨が降ったって、、、、昨日は晴れでしたよね。
「おとっついだぁべそれぇ、二日ぁ前だぞ、ゴンタぁ。」
「二日前!?」
「
まだ何も見えておりません。」
「おはようございます。昨日の豪雨でだるま山に
「マストに帆を上げましたかな。落ち着いて参りましょう。」
草野風さん、背高さんも穏やかだ。
僕が二日間眠っていたのは、どうも本当の事らしい。
管理人のおばさんは、
「米を
どぉーぞぉ、
と、かぼちゃや、芋まで入っている甘いお汁粉を配った。
「まずは、水時計まで行きますか。」
草野風さん、背高さん、僕と、後ろには河童が、ガタゴトと台車を引き、歩いて行く。
「果てしなき、洋洋水路ですな。水に恵まれ途絶える事無く、言継さん眠りに就くも、泉湧き、時を流し歩む。
私も川上では、
「言継さん、呼び水になったんですね。私も心沸き立ちますよ。」
僕が草野風さんを呼んだなんて、とんでも無い。
「僕は、洋洋村までの道のりを伺っただけで、まさかご一緒に、いや、
「まぁ、
「東の空が白み始める頃ですな。」
「おぉ、さんさん輝きをぉ、太陽が来たかぁ。」
「
空は澄み、夜は明けて来た。水時計の
「はい、いらっしゃいましたな。ご案内人、お待ちです。」
草野風さんは、手を上げると
「
歩いて行くと、体の大きさに驚く。この人は、チーズを配っていたおじさんだ。それと、その横にはサポーターを足に
「お早うございます。
私、山の上からこちらに来ましたのは初でございますが、案内人は実は、この四人衆。山高い場で
「
「
朝採りでお分け出来る
「水時計に並んでねぇ、つぅ事は、
「そうですよ、
河童は籠を背負い、僕も靴ヒモ、腰ヒモと縛り直した。
「ご準備、宜しいですね、大空が近く感じるかもしれませんよ。」
四人の後に就いて、僕らは再び水畑に続く水路林へ進んで行った。
剛駿さんの農夫百態は、思い深く、
紅悠さんのおとぎの国は、不思議が溢れ、野リス達もリンゴ園が終わりに近づくとこれ以上進む事無く、花絨毯の端に並ぶと、見送っていた。
空は
美しく高々と並んだ木々を過ぎ、水路は広がると、一面、
「水が、綺麗で居心地が良さそうですね、この野草達は。少し食べてみてもいいですか?」
背高さんは、長い足を岩にかけ
「クレソン!ですね。奥の方にはまだ他にも有りそうですが、何ですか?」
「どうぞ。群生していますので、
「水畑にしましてね。元々少しでしたが、
「オオマツゥヨイグサァ、だったらよぉ、俺も育て
「木彫り職と
木彫りの腕を磨きなされ。」
「強い生命力ですよ。荒れ地でも、水が豊富にあっても、逆に人の手にも上手く順応するのか。」
「野草の
さらさらと、水の流れる音が
「行き帰りの疲労回復、ヤマユリ、ヤブカンゾウも山地に入れば、ガマズミも実を付け、スイカズラの不老長寿と、ウワズミザクラでぐっすり眠れますよ。」
「そちらは
「わぁくせいのぉ、土星さんなら、外側回って俺、
「
「
まぁ 、酒に十の徳ありと、私も皆様と、縁を持たせて頂きまして、こちらに出向かわせて貰いまし、大変感謝しております。
毎日、牧場ばかりに目をやって、牛か人間かわからん事になっていた所でして。終日、牧草食べているわけではありませんがね。」
と言って、大きな牧場さんは、大きな声で笑った。
「
「モモヨが姿を現したお陰で、田を耕す助っ人が来てくれる様になり、私共も感謝していますから。」
「
牛との繋がりで牧場さんはここ洋洋に来るきっかけになり、僕は僕なりのきっかけ。
なかなか面白い事だな、と、この先の水田を期待した。
水々しい青菜の
静かな川も岩が大きく水深いのか、流れも強くなり、僕達が坂を登って行くと、川は枝葉に覆われ、遠くに見えなくなっていった。
「暫く登り坂を歩きますので、枝を使って下さい。」
四人は背中から棒を出すと、四段階に伸ばし、僕らに一枚づつ杖を手渡してくれた。
「転ばぬ先の杖と、ご用意が宜しいですな。
「何をおっしゃいますか。草野風さんコロンブスの卵ですよ。一つお話し致しますが、例えば桜木さん、
ご存じ、あちらのヤマモモの木は、草野風さんが見つけ増やされたのですよ。」
「そうでありましたか!紅色彩やかで甘い香りは、私のデカダンスとなりまして。心の回復薬。どうりで美しい木だと思いました。親猿の番人が飛びかかる訳です。いや、申し訳ない。」
「自然の産物ですから。この奥深い山全て、そうでございます。桜木さんも、お一人で、ヤマモモ場までこられて、山の都の目は肥えているのではないですか。山に住まれ、山好きは、山草、果実と食の保存、貯蔵が得意ですから、ヤマモモに気が行くのも当然の事ですよ。」
牧場主の桜木さんは、巨漢の剛駿さんよりも一回り大きな体つきなのだが、歩く度に、アンズの木や、山サクランボ、コブシと、自生しつつ育て上げられた木々を見つけては
「始まりを見て、又、感心感激致します。山男ですから、どうも木の実ばかりに目が行ってしまいますが。
山育ちの性でどうしようも無いですな、私も。」
と草野風さんと話す姿から、桜木さんは、とても生真面目で素朴な人なのだと感じた。
「チーズご馳走様でした。僕、今度牧場に伺わせて下さい。チーズ美味しかったです。本当に。」
「毎日、牛に囲まれ暮らし、久々の会合でしたがこの期は、草野風さんのお創りになった好期か、花好きの畑に花が集まりますでしょうか。どうぞ、歓迎致します。」
「私は、何もしておりませんよ。言継さんのご意志ですからな。」
「呼び水になったり、汲まれたり、若々しさは、潤い散水、水飲み鳥がいてくれたら、助かりますからね。」
河童の二人は
「魚心あれば。」
「水ぅごころぉ。」
「緑の力、植物は、全て与えてくれますしね。」
「芽を出し、花が咲き、実を付け、枯れても、さまざまな形で、私達を逆に育ててくれていますよ。」
「しかし、水がありませんとね、雨が降り、海が出来、土の力で川が出来、植物や私達、生き物は、さまざまな恵を授かっているわけです。」
「包まれてます。」
「
「何だか、鉱物扱ってますのは、栄養不足になりそうですね。」
「大ぃーー好物は、俺の自慢の
「ミネラル十分ございます。
「砂漠のばらは、結晶での美しさかな。」
「トパーズを磨くも、
「
「それは、化石では無いですか。」
「化石!?」
「
とにかく案内人の、
太陽の日射しが草葉に反射し、眩しくなって来ると、先頭を歩いていた
「朝霧が多く出ますと、足元滑りますので、登りましたら立ち止まり、皆様、まずは、ごゆっくり眺めて見て下さい。」
日も登らない早朝から歩き始め、とうとう、水田に到着した。
木々が弓形にアーチ状になった
遠く、急な斜面は、絶壁になっていて、そこの岩々は、細かな花を咲かせ岩のプレートが受け皿なのか、何と言うか
▽▽▽▽▽▽
僕にはポケットに見えた。
△△△△△△
その岩を盛り、包む様に緑が生い茂り、斜面から水が滝になり、
流水口からは、水煙りが立ち、霧にも包まれ、そのポケットが浮かんで見えるのだ。
そして、前方正面には、緑のポケットに水が注がれ、一つ一つが水田になっていた。
山の斜面を使い、水路が四方八方に流れ、小さな区画に分けられている。
「空気が美味しくてこれは絶景ですね。」
背高さんは、両手を広げ、その目の前に広がる景色を見ると
「シャンペンツリーですよ!葡萄畑では無いですが、こんなに美しく整った水田は見た事が無い。
この、地形に上手く沿っているのが、見事です。」と、大きく深呼吸していた。
シャンペンツリーと言われれば、カップにも例えられるが、どちらかと言えば房だろう。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽△△△△△△△△△△△
標高何mなのか、この高々とした、水田の頂上からは太陽の日差しも強いが、遠く岩山の空には、月もぽっかり。
薄々と存在感を現し、地上から見るよりもとても近くに感じた。
僕は蜜柑の間にあった「水」 「林」 「月」のカード、そして壁に掛けられた花枝の
一つ一つの区画が小さいので、上から眺めると、かなりの急斜面で、下の方まで続く
いやこれは、
「、、、、、花びらが広がっている。
花みたいだ。」
僕は思わず声に出した。
「
草野風さんは笑っていた。
「広がりましたよ。素晴らしく。」
「流れを
「オタァマァジャクシィにモリアオガエル、ノンベンダラリと、こんな所におりましたがぁ。
ドンデディゴディゴ、ノディゴディゴ。急がぁばぁ回れぇい。」
「そんな
「俺はヒゲクジラぁ。」
「滝口の絶壁に花が盛られていますが、自然に?」
「ツルハシで登り、流水口を創る際に出来た場所ですが、鳥が種を運んだのでしょうな。」
「草野風さんの
「
「
「
「そこで陽月さん頭を抱え、取りました策として、天然ミスト、
飲み、尾まで潤せば田畑までもと百姓の
これは昔僕の家にも置いてあったおじぎ鳥の巨大な物だ。
高台から滝が水路になり、枝になり、花が咲く様に区切られた水畑は、遥か遠い昔、まだ僕がこの世に生まれる以前から、静かにこの場所が人の手によって創られたのだ。
緑の色深さと、見慣れない岩肌の光景は、江戸時代、いやもっと古い時代にタイムスリップしてしまつたのではないかと、自分の鼻をつねった。
「奥に広がる山と山。その山々に囲まれ包まれこの場所に立つと、私は熱い達成感とその次への何か挑戦意欲が沸き上がりましてね。」
「
「山に
「季節、季節に一つ一つと。」
「私が貯蔵されては、たまりませんよ。」
「熟成小屋で寝かされるのは、チーズでございますか。私も牧場でホルスタインばかりですから、この美しい風景を見ると積み重ねられ考えられております所はなかなか考え深い。」
四人衆、草野風さんは桜木さんと共にニ、三段下へ歩いて行き、僕は背高さん河童らと滝口へ寄って行った。
「この滝の源は、水時計からの水路だと思いますが不思議な事に、ここはかなりの高台ですよ。」
「川もぉ、登ってんぞぉ、水時計は、恐るべしだぁ。」
「そんな事あるんですか?」
「私共も存じません。」
「山からの清水という事も考えられますよ。」
僕は、草野風さんがこの水田において何か伝えたい事、
そうだ!あるのだ!
水を掴み、月を探し、林を見た。
「雨だ。」
「降ってねぇけど。」
「では
「いや、あっ雲?だ。」
「雲?」
「
皆の話をよそに、僕は
「辿って少し下りてみましょう。」
背高さんが流れに沿って歩き始めた。左手のニ、三段先に草野風さん達の姿が見える。
「慎重に歩きましょう。転がり下に辿り着いても、磨かれませんからね。」
一段下は、弓なりに仕切られた水田がある。回りをこんもりと
石の重い質感と
「
「乾杯なぁらぁ、
小さく区切られた水田だが、稲はそれ程の量には感じない、あまり密集していないのか、ゆとりがあるのか狭い所でそう感じるのか。
水が、とても良く澄み渡って、反射して光る
「おじいさんなんでしょうか、この石積み。」
「草野風さんの、信念では。」
「かてぇ岩だなぁ、これは。」
その先に歩き、
「どうぞ、こちらへ。」
その場所には、土が広がり盛られており、作物は何も無い。
水路も
「つちつちと、
「
「
「この場では、土を肥やしておるのですよ。良い作物を育てるには、
一種、二肥、三作り。」
「成長し、眠リ、根を伸ばし、日を浴び、肥えて、と、人間と同じですよ。」
「心もありますしね。上手い土に水、きちんと手を掛けてあげれば、とっても素直に育ちまして、美味しくなるんですよ。」
「ほぉったらかしじゃぁ、枯れてしまうだろぉ。」
「まぁ、甘やかしてもいけません。サポートをね、支え、整える。」
「段違いで、土に
「こちらも頭が、ガチガチですと、肩に力が入ってしまいますし、自然にも私の心が移るんでしょうね。
収穫も少なければ、心配にもなる訳で。原因究明とムシロを被り葦の
ならば海を探れと大海原へとぉ、潜水艦まで乗り込むかい、あれやこれやと論を交わす、なんて事も致す訳です。」
「もの事の根本を、お考えになると、言う事でしょうな。」
稲一本にも心がある。そんな風に話す四人は、この仕事にとても誇りを持ち、生き生きと大地に立ち、質実とした生活を送っているのだろう。
僕は、その四人の心意気というか、気合い、、、、気持ち、、、、気い、、、、気勢、、、、。
丸太を担ぐ程なんだから、とても大きな意気込み、、、、、、、。
「気だ。」
そうだ、気の流れだ。
川に米あり、
土を整え気を見つけると。
この水田が伝え、見せていた事は、スライド蜜柑と、
そして、皆の情熱なのだ。
「ひとつ、ご覧頂きたい物がございます。」
草野風さんはそう言うと、
「大分前ですが、掘っておりましたら、いくつか石が出て参りましてな。」
「アクアマリンですね。これは。
「珍しい物ではと、残しておりましたが。」
「宝がぁ出たのかぁ、こりゃぁノルカフゾルカァ
「
「鉱石が出るのなら栄えますでしょうに。乳牛にも飾らせて頂きたい所ですが。」
「理想郷に住まい、自我の念と創造の地に、誇り、
「採石場という場では無いですしね、ここは。」
「
「
「我々の時分は、食思強くも食も少なし。」
「そこで草野風さん、
「山に舞い踊らされていたかもしれませんがな。」
草野風さんは、
草野風さんが、この地を切り開いたのだ。
僕がこの地に辿り着いた事も気に掛けてくれていた。この人のごつごつとした腕が、全て物語っている。
去る者、来る者、住まう者。
きっと、
この地に来た者、洋洋村の人々、皆、生活をしながらも、僕の心の気を案じてくれている。
「
「めんない
「よーく、ご覧になって、このご縁、心気に一つ、ほんの一つですよ。残しておいてくださればね。」
「草野風さん、そのアクアマリン、私に預からせて貰えませんか?」
背高さんは石を一つ手に取り、日差しに
「ローズやクォーツアメジスト、まぁ水晶ですが、そういった石もございましたでしょうか。せっかくですから形にしたいですよね。私に任せて頂けませんか?流れ流れ眠っていたのですからね。」
「そうですか、何やら首に飾り物では、老人の木登りと冷やかされそうですが、身に付けておるのも宜しいと聞きますからな。」
「やらせて頂けますね。」
「では、これに。」
草野風さんは、ズボンのポケットから懐中時計を出し、背高さんに見せた。
「時の相棒でしてな。
長く使っておりますが、まだまだ現役といった代物です。」
「石が、付いていたのですね。」
その懐中時計の表面には、元々石が付いていたらしく、ぽっかりと中央に
「時計を落とし、探し掘るうちに石を見付けましてな。」
「草野風さんが、懐中時計を出すと、鳥が鳴きまして。今日はもうお帰りですかって。」
「あーんころ餅でぇ、尻叩かれたかぁ、宝を掘り出したとは、幸せもんだぁ。」
「
洋洋村の奥深く、岩壁の水田、水煙り、霧立ち上る厳しくも優しい水郷は皆の支えである。
「収穫時には、また少し賑やかになりますが、どうも、
この水田そのものも宝。食の宝石だ
こだわりのある洋洋村の食事に改めて感謝した。
「成り行きて掴み多くあった実りに思い出すのもまた懐かしくもあり、 新しくも感じ誠に縁とは可笑しなものですな。」
「私も、その時にはお呼び立て下さい。足腰は丈夫でございますから。」
桜木さんは、大きな体を起こし牧場へ帰って行った。
河童は、米の入った袋を
「草野風さんは、石に花咲かせたかと思わせる程、未知のパワーをお持ちな方ですから、楽しみです。
今回の桔梗公演。」
草野風さんは不思議な人だ。水田を眺めている姿は何か達成感に満ち溢れていた様子だったが、僕が最初に尋ねて行った時は、それこそ道案内の人であり、茶人の会に招かれて来た時と今とでは何か違う。
この人の表情がそうなのだ。
子供のような目の輝きと、落ち着いた口調で微笑んだり、驚いたり、独特の雰囲気のある人だ。
「刈って、行きますか。」
水畑に着くと、
「ご苦労様です。本日は、水畑アラカルト、水時計まで参りました時には、また宜しくお願い致します。」
四人の案内人は、道具や杖をコンパクトにまとめると、再び山へ登って行った。
▲△▲△▲△
遠くで野リスが跳ねている。
甘い香りと
「パト-スパトロール!かーいろうマウンテーン!
あわやアップルジャァグラァ-、円形広場のサイクルピエロ、やややそれデモぉ
満足ゥ、サウスポー。
カゴの水菜を置いてきナァッテナ、コチラニ十分ご用意アリマス。
ツリーハウスでお持て成しさぁせて頂きマァス。」
「紅悠さん、つかまえましたよ、僕。」
「ご用ぉ意ーとはぁ、紅悠リンゴのフルコースかぁ?」
「イイエ、管理室ヨリ届いてオリマス。五段重ねのミルフィ-ユ、中味は食べてのオ楽シミ。」
河童らは、荷物を置くと、疲れも見せずさっとツリーハウスへ。
その後を背高さん、草野風さん。僕は、初めての冒険小屋に胸踊らせながらも、洋洋パズルの1ピースを探すべく、注意深く上がって行った。
ツリーハウスの中は、外よりも広く感じられた。
中央に大木が突き出しているが、その木を支えにテーブルがある。
部屋の壁には、取っ手が多く引き出しかと思いきや、ジョイントしてテーブルになったり、ベンチ風のイスを半分に開けると、帆が張られ、簡易ベッドにもなる。
さらに壁の上に付いた取っ手を引くと、テーブルの上にぴたりと重なり寝床にもなるらしい。
棚も所々に付いていて、四角にキューブの引き出し箱が、幾つも並んでいた。ベランダがツリーハウスの周りを囲み、ハンモックも吊るしてあった。
そこに揺られているのは、まさに鳥気分になるだろう。
大木にも四角い引き出しが四つ。フックも天井から等間隔で付けられており、袋がぶら下がる。
その網袋には、紅悠さんのリンゴ。
チップスや果実など瓶に詰められ、上の棚にずらっと整列されていた。
網の張られた箱が外にあり、そこの引き出しにも網が張ってある。
所々の取っ手は、小さなドアで、下の隅にまで付けられて、ネズミの入り口みたいだが、壁に付けられた数々のドアや引き出しは、別世界への入り口という訳でも無いだろうが、収納があまりにも多く、何が何処に入っているのか忘れてしまう位の数なのだ。
体こそ入らないが、小さくも無く、大きくも無く、不思議なサイズのドアだ。
「ゴ面倒デスカ?面倒臭いナドトハおっしゃラズ、アップルフレーバーでございマショ 。
コチラを引くとこうなっておりマァス。」
紅悠さんは、テキパキと楽しそうに引き出しを開け、料理を出してくれた。
「後方、下カら三番目、そちらノ引き出しから、ナイフ&フォークをお願イシマス。」
「空っぽのぉ瓶しかねぇがぁ。」
「ソチラノ隣でゴザいマス。」
「幸男サん、グラスを。」
僕の目上には、グラスの戸棚があり、所狭しと並んでいた。
「ナフキンを掛けませントネ。」
テーブルの上には、鮮やかな色の料理が運ばれ、あっという間に、昼ご飯の用意は整えられた。
「本日のミルフィーユ、ど ウ ぞ お召し上ガリオ。」
目の前の木箱には、まず最上段、サーモンピンクに緑のツブツブ、赤のツブツブ、黄色のツブツブ。
コンソメゼリーが輝いて、中央にはフワットムースが乗せられてとても綺麗だ。
その下は何だろう。バターライスにハーブが香り、その下からは、蒸し魚が挟まれて、その又下にはすっぱいパスタ。キノコと根菜、新鮮野菜でさっぱりサラダだ。
そして、一番下の段には、ジューシーで歯ごたえのある鳥ひき肉のうずら卵入りと、全てがぎゅっと濃縮され、ひし形に固められている。
「これは、これは、手の込んだ一品でございますな。」
「挟めばぁミルフィーユってぇ、加薬飯も間に入れれば同じさぁ。」
「全体のバランスも、お考えなさい。
「もってぇねぇって、俺がぁ、皮捨てるとぉ、拾うだろぉ。」
「大事にする気持ちが解れば良いのですよ。」
「物の少なき時代におると、捨てる物を探す方が大変でございましたがな。」
「人間、いろんな引き出しを持っている方が、羨ましいですからね。」
「俺の炊いた飯には、何でも合うぞぉい。」
「以外な所に、以外な物は、互いの気持ちが合えば、楽しいですけど。」
「見つからなぁいと怒ってしまわないで下さいね。重ねて 重ねてたぁーぉれぇるぅぞぉ。
リアルジェンガは ツリーハウスでお楽しみを。ございますから、アブト式ぃ。」
「きっちりと木を組み、丁寧な技で、洋洋もこの方の工芸技で
🎶
「
からくり
ドラマツルギー、
「からくり塔で、お会いしました。
怒らせてしまって、合い言葉知らなかったから。」
「合い言葉はございませんよ。ややこしいかな はずみです。」
「つってぇ、引き出しをぉ、出せよぉ、リンゴぉ。」
「
洋洋村で気付いた事。洋洋村は、創作の村だ。皆、それぞれが作り上げ、それぞれが見せ、必要の民として、生活し、伝承し、守っている。
僕も何か創作の意を掻き立てられるが、パズルが気になり、そんな気にはなれない。
早く引き出しを開きたいのだ。聞きさえすれば、、、、僕だって。
「
「
🎶
「
「ダブルさくさく ダブルハ ッ ピー。 またのご来店、お待ちしております。」
紅悠さんは
==========================
タダイマ絵画セイサクチュウ
野リスヨけナッツボール
ゴヒツヨウのサイ
おコエヲオカケ
クダさい
==========================
描かれた看板を指しながら、ジャグリングし、僕達を見送った。
「りんごの家はぁ、甘いからぁおっかしぃなぁ。」
「いつもならの水時計まで、参りましょうね。なかなか食料調達も大変なご苦労でしたが、この度は虹を拝めさせて頂き河童の木彫り職の
「
「お持ちなんですか?」
「
「火ホドに
「木は燃えるからよお。」
「
僕は、この作品に出会った事で大切な事を教えて貰った。
水時計の底の彫刻と重ね合わせてみても 同じ思いだ。
「洋洋村の食事は、とても美味しいですよね、僕、こんなにしっかり食べたのは久々というか。歩いているせいか食欲も出ますね。」
「ゴンタは何を食ってんだぁ?」
「水車が回り、今までも沢山の方々が洋洋にこられましたが、時に上手い上手いと
皆様、洋洋の食事は大変美味しいと、良くお
「転がってぇ帰るんじゃぁ、ヲコヲコっとお。」
僕は振り返り、
○◯○◯
「お待ちぃーしてぇおりましたがぅわ、どうもぉご苦労様でぇございます。」
「ほーっほーっ。うとそうそうと、羽つるべで
行司さんは、
そして、草野風さんに頼まれたあの石像も置かれている。
「がぐぅわぁ、勇魚風呂でぇ、
からくりに石こぎ、すり鉢を持って行ってやった所、興奮しおってぇ、
「ほーっほーっ。
「行司さまぁ、
「木車もございますし、お二人ではご無理かと。」
「ほーっほーっ。私も、剛駿の
「しかし、かぶら矢など背にしょいて、何に使うおつもりですか?」
「
「ほーっほーっ。これは、
「担ぐぅのぉは、ワシ一人でぇ十分だがぁ。」
「なんでもこれは大変ですよ、
「運搬術も、
「
「僕も、運ぶのを手伝わせて下さい。僕これでも引っ越し屋でアルバイトしていましたから。」
力自慢している訳でも無いが、思わずとんでも無い事を言っていた。
「ぐわぁははは、リンゴを売りに行くのとはぁ、訳が違うからのぉ。」
「ほーっほーっ。言継さんは、ご
僕では力不足だと言う事は、自分でも解っていたが、ここ洋洋には、車も走っておらず、足は、自分の足でしか無いのだ。
「私共が、荷車お造りしましょうか。河童も数名おりますし、火ホドから離れた木車造りの
河童の
「
「ほーっほーっ。時をお持ちなのは、草野風様。ここは河童の
「幕開きは二十日後ですので、時をお使い下さってもご結構。ご準備整いしだい、お願い致しますが
「ほーっほーっ。剛駿も洋洋村からそちらへ出向くのは、三千日程ぶりでございます。」
「腹ぁ二十日、眼ぇ十日ぁだからぁよぉ、桔梗に今から行けばぁ慣れっだろう。」
「河童が運ぶのではございませんよ。お力添えをする為にも、
「俺も、見てぇなぁ。」
「
「ほーっほーっ。我が上の星は見えぬと言いますからな。」
三千日もの間、剛駿さんは洋洋から出ていないなんて、、、、、、便利な生活をしている今の僕では、とてもマネ出来ない事だ。
「岩石と彫刻と、三千日とは、羨ましくも思いますよ。」
「ぽつぽつ三年波八年、創造の地、洋洋の今を知り、嬉しい限りですな。甲斐あってこの形になってきたかと。洋洋の人々、洋洋を知る人々、楽にお待ちしております。」
「
「はい、参りましょう。火ホドから離れましたので、今は水門の近くにおられるかと。まずは、木車で食料を運びますので、ご一緒にいらして下さい。
「俺はぁやっとこさぁ、肩の荷が下りたかぁ。ナをこしらえておくとするかぁ。」
「水門にかささぎが飛んでおりましたな。」
「かささぎの橋ですか。桔梗への。」
「ほーっほーっ。三千日では、ちと長いですぞ。」
かささぎの橋は、天の川に渡される空想の橋だ。
かささぎ鳥が翼を広げ、橋を架けるのだ。
三千日に一度では、たまったもんじゃない。
洋洋の厳しさは、忍耐力が強くなければ超えられない。
「私共は、明朝、洋洋を発ちます。剛駿どの、待っておりますからな。」
草野風さんと背高さんは、剛駿さんを熱く見守り、水時計に立っていた。
「ほーっほーっ。言継さん、洋洋水田まで登られ、心に何を思われましたかな。」
行司さんは、羽織りの袖の袂から、
「見つけましたら、まだ言わず、心に思っていて下さい。」
「楽しい版画ですね。」
「ほーっほーっ。
「いいえ。」
「では、花にございますか?」
僕自身まだ探せず。
「ほーっ。では、チリヌルヲワカ、、、、エヒモセス。」
まだ出ないけど、もしやこの絵文字、、、、
「ほーっ。葉には?」
「葉です。」
「見つけましたぞ!右側の枝にございますか?」
「いいえ。」
「ほーっ。では左側。上から三番目の枝。」
「はい。」
「もしや、《気》では?」
「そうです!当たりました。」
「大当たりですな。」
「ほーっほーっ。草野風さまの心も通じましたぞ。」
「気の流れに時を読む。古き洋洋の時代の移り変わりを知らずと生き、気流をまた少し見つけましたのが、己でもおかしい事ですがな。絵解きし、創りし心を読む。
「新鮮ですよ、こういった物も、今では。
次ぎ、私も心に思いますから、当てて下さい。」
剛駿さんの石像の前で、暫く、僕らは洋洋目付絵文字を《ヨウヨウメツケエモジ》、繰り返し遊んだ。
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