第4話 光の輪
四、.光りの輪
紅悠さんと、僕は、六款さんに勇魚風呂の礼をして、水時計に戻った。
シードルをニ本渡し、寝てしまった剛駿さんには、後程、
置いてある自転車を見ると、まだ行司さん達は
「
「
あんなに巨大な作品、何かスケールの違いを感じたと言うか。」
「ソウでゴザイマショウ。アノお方ノ分身デスヨ。たーだーしィ、
「何ですか?それ。」
「お
🎶
「♪
紅悠さんが、
一列に数羽止まるとその場で
正面を向き笛を吹くと、止まっていた小鳥が一羽づつ頭の上に飛び、笛の合図で、水時計に戻っていった。
僕も水時計に寄り、指を出してみると小鳥が一羽、手に乗ってきた。
「掴まえましたよ。
「♪小鳥デナク、
紅悠さんは、水時計に並ぶ小鳥達を、見事な技で進めたり、飛び交わしたりさせる。僕は
「ほーっほーっ。小鳥達も
「
「すると剛駿は、
「
「ほーっほーっ。
「はい。」
「まずは、ご発展されて、喜ばしいですな。のちは、洋洋にてか、遠き未来か。暫くは、この
考・動・実の器、古い器も確認すると、水時計から流れる水で洗い
「組み立て行く、
頭に巻いたタオルを外し、染め場の葦編み帽を被ると、僕の秒針のねじは、目一杯巻かれた。
†
「お待たせしてしまいましたかな。」
草野風さん、背高さんも刷り場から戻ってきた。
「さあ、これからの宴も楽しませて頂きますよ。夕暮れ山影も現れるのではないですか。はい、急ぎましょう。」
僕を先頭に、再び自転車で円形広場までの水路林を走って行く。
水車はもうフル回転だ。
広場に出ると、人々が円形に添って集まっていた。広場の中心では、大きな釜と、火を
「ドンッすーがーたぁ、あーたーまがぁでたか。」
円形建物の窓から、中にいる
「ドンッドンッひーなかに舞えば、
「山の
「おいでください。ホドの
「ドンッ目ぇが出たかぁ。」
河童達の調子に合わせ、日が沈んでいくと山影から丸い頭が出て、重なる森との
「洋洋雨も降らせれば、だるま様も実が付くとぉ、
だるま様は、中央の釜飯を包み込むと、夕日と共に消えて行った。
「ほーっほーっ。河童が
「
河童達は、林の先に小さな姿を燈すと、一斉に明かりを付けた。足元のランプシェ-ドは、道を指し、さらに大きな
河童は、明かりをかざし光を揺らす。
円形建物からの照明と合わせ、場内はフラッシュ。腰から下げた筒に火を付けると、
「盛大ですな。」
「河童ぁのホド飯、
「ほんの一瞬なんですね、だるま様。」
「
土管に横たわり目の前に落ちると見えたのは、この山影だったのだろう。
「
アシタバ、フキフキ、カワエビ、ヤマメ、生姜ピリリと、ワサビツン、ネギ坊主と山ゴボウ、山の芋をとろりとかけて、ごま、きのこに、かにも来る。
お盆を首から下げ、二十センチ程の長方形の木箱が、何段か重ねられていた。
炊きあがった釜飯を河童達は木箱に詰めると、束ねた箸を持ち、広場の人々に配った。
「まず、木箱も箸も
「ほーっほーっ。河童は、蕎麦、加薬飯を
本来は、
「うん、ほろ苦い山菜の味も良いですね。このお箸に彫られているのは、河童?」
「ですな。ほーっほーっ。くるみの木で創られています。」
「では、一組、二本で創作の意もご
長目の箸に河童が彫られ、木箱は木目を生かし、滑らかな長方形に彫られている。
「あの盆を拝見。」
草野風さんは、釜に行き、立て掛けてあるお盆を 手に取ると、こちらに戻って来た。
「
と、そのお盆は、小さな花が集まって、一つの大きい花に彫られ、周りには網目の様に細かな草葉と鳥、
「加薬飯は、お口に合いましたでしょうか。どうも、私、緑丸です。
そちらの盆は私の作でして。」
河童の面をくるりと外し、他にも二、三、盆を持ち、蕎麦を振る舞っていた河童とは、また別の河童が現れた。
「野草や川エビ、カニ、きのこ、マナも入れば、洋洋山の
もう
「ほーっほーっ。河童の
「細かな緑の花蔓など、形取りが美しい盆ですな。」
黄昏れ時に河童のたそかれ。バスの運転手さんが言っていた、たそかれとは、そういう事だったのだ。きつねも河童も誰そ彼だ。
えっ?僕は、、、、、。」
「この盆は、祝いなどでも喜ばれるでしょうね。使い込んでいくと味わいも出てくる。」
「その通りでございます。
普段から、お使い、飯度、茶飲みから、鼻の油もちょいとって、角も取れてくるのです。」
「
「このお箸を創られた?」
「はい、
「河童の姿がスマートですね。」
「それでもって、角度も少し傾いている。長さがありますが、
「私、箸を長目に持つのが
「使い心地を追及しましたら、この形に辿り着きまして。」
「なるほど。私にもしっくりきますよ。」
「ほーっほーっ。
「毎度、毎度の
「次ぎにも、いらっしゃいましたな。」
「河童の木彫り職も座り仕事なものですから、宴が開かれる時には広場泳ぎ回ります。
「
「箱と言えば箱ですが、くり抜かれているのですなぁ。大きな豆、
「行司様、
「
「オッカ、オッカ、ケムさぁ、
「ほーっほーっ。
「ホドの
「
「クドクド言うが、オッカオッカさぁ。」
「まだ、宴もこれからですよ。と、
しかし、好機も
「ほーっほーっ。お創りになられた作は?」
「こちらです。」
半分に切れ目があり、引くと蓋が開いて中が《クウドウ》空洞になっていた。
何か小さな物を収める事が出来る入れ物だ。
表面にはとても細かな
「石ですか?」
背高さんが、興味有りげに聞いた。
「
さまざまな木を組み、埋め込んでおります。」
「石を入れて置くのに良いではないですか。お若いのに、
このままか、、、、。」
「ほーっほーっ。ホドに戻られるか。これも解らない所でございます。」
「ドンブリガエシならば、火吹き竹も気取らせさぁ。」
喜んでいる様子だが、
「
と言って、
「ひぁあ。絶品ですぞ。これはこれは、毎度の事かと、んぅーん上手い。
っつーて、と思ってこりゃぁ美味しいぞぃ。あにぃあにぃと聞かれましても、私天才なんでございます。後ろぉ向いての目ぇつぶり、必ず決めますコーナーワーク。
あら、美しみづらに髪を結んだら、ニュースタイルと
うららぁキュービズムの
ピチッとぉ、
弾けまぁす。」
眉毛はうねり、丸く盛り上がっていて、頬もふっくら。大きな口は三日月でトンガリ、切れ長の目は垂れ、まつげが刻まれている。
全体的に笑っているのだが、木の質感が重く堅く、木目と深い木の色合いでとても味わい深い。
二つに結ばれた髪型が、また独特の
「ほーっほーっ。本日は
こちら、
なかなかの
「オレのぉ、
細細しいは、
「
「大きやかにと、玉入れをリンゴ入れにと創るのですか?
「木目を読むのです。木を育て、木の年月をと、木彫り処におりなが ら、
じっくりと
「ほーっほーっ。ごてられておりますな。
「あーい、アプゥリオーリィ、と持ってイルなーらー、お急ぎ無用ォ。リンゴぉ木箱も嬉しいがァア、ユルリと走ってキテクダサァ-い。宴タケぇなわァト、シードルで、
紅悠さんは、お手製のリンゴ酒の瓶の
「杯ヲお出しクダぁサーイ。リンゴ香ル
「
と言って、皆の木箱の窪みに、葉で包まれた
しその間に、ネギやノビルなど香菜が挟まれ、
握り飯も加薬飯が火で炙られ、香ばしい。きび餅は、ほんのり甘くいくらでも食べられそうだ。
僕は、
「ほーっほーっ。では、私も。」
と行司さんも絵文字器を使う事に。
「
皆様の出合いに、幸あれと、乾杯致しましょう。」
僕は改めて、この洋洋村でのさまざまな人々を思い、乾杯した。
木杯は、ずんぐりと厚く、足も太い。
古代の勇者が
ピリリと喉の奥が辛くなるシードルは、細かな気泡に身体も包まれ、自然と軽く解されて、
「追い越せ、追い越す、おいど、おいど。」
「せーんどぉするもぉ、プロパガンダァの焼き付けかぁ。」
と歌い、葦笛を吹き、歩き回る。
腰を曲げ、首を突き出し、笛を吹く姿が可笑しくて、僕は器の入った木箱に座ると、火吹き竹を叩き始めた。
他の河童も面の下から、面を外しと、葦笛を吹く。河童の
「
楽しい宴の河童隊に拍手喝采と盛り上がる中、僕は
「ゴンタかぁ、おめぇ、オレはヲコかぁ、勇者になれよ、オレが怖いかぁ。」
突然、
言葉が出ず、頭に浮かんだのは
「
何か解らないが、僕は、紅悠さんから、大瓶のシードルを貰って、林の奥の、建物に、一人走って行った。
水路添いばかり走って来て、最初のこの道の美しさに、まったく気が付いていなかった。
僕の走る足音だけが、綺麗に均した道の上から林全体に響き渡る。
木造ブロック造りの時計塔が見えて来た。立ち止まり、一番上にある文字盤を見上げるが、高過ぎて時が解らない。
振り子を覗くと、忙しそうな人の話し声が聞こえてきた。
広場では、
すると、振り子の奥から、男の人が現れて、また僕に
「はい、どうぞ。」
と今度はL字型の木で出来たレバーの様なものを渡された。
直ぐに奥に戻ろうとするので
「ツリーハウス!見ましたよっ」
僕は、大きな声で呼び止めた。
「中には、入っていないんですが、、、。時計塔の修復をしていると、剛駿さんが言っていましたので、そうではないかと。」
「ツリーハウス、ご覧になったんですか。
野リスにかじられてはいないようですね。
中に入っては見ていないと、、、。
えーそうですよ。
私がツリーハウスを建てました。わんさか時計塔もです。」
「あの、、、、ブロックと、中に入っていた滑車は、一体なんなんですか?それと、このレバーも。」
「唐突に、君はなんだ!
君こそ一体何なんだっ!、、、、
私は修復作業が残っていますので、
これにて失礼。」
聞いては怒られた。
怒って、、、行ってしまった。
行司さんがいなかったからだろうか。
名前も名乗らずに直ぐに聞くなんて、やはり失礼だったのだ。
僕は、わんさか時計塔を出て、光の輪の揺れる建物に向かった。
洋洋村を照らす月明かりは、昨夜と同様に林の中を幻想的に映し出す。
《 願い事を唱えながら走り、光を吹き消すとほんの少し未来が見えます。あなただけに見える未来ですけど。》
行司さんの言葉が頭に浮かんできたが、大瓶のシードルを持ち、時計塔で怒られた事で気持ちがへこみ、十ケ所もある光の輪を、飛び跳ねて走る気にはならなかった。
正面玄関の前に着き、横の階段に向かったが、ふと足が止まる。
僕は河童隊加薬飯の宴たけなわ、卯多彦さんになじられこの場へ来た。
しかし、あの二人に僕は何を話せるだろうか。
使い道の解らないレバー、器の入った木箱とシードル、、、、、。
染め場に包まれた荷物を置くと、僕は振り向き、光りの輪を眺めた。
光の間で踊る彼女を思い出し、花の音が聞こえるかと耳を澄まし、手前に光る輪に近づき、体を屈める。
かすかだが、小さく燃える炎の音が聞こえたが、何も解らない。
その横の光の輪に行き、またその横の光の輪へ。
ちらばる十ケ所の光の輪の中を、僕は飛び跳ねていた。
時折、揺れる炎が「ポッ」と鳴り、おじぎをしてくる。
僕はくるっと回り、両足で輪の前に踏ん張り、腕を下から大きく広げた。
するとその輪は、小さく丸くなり、僕にウィンクをして、消えて行った。
消えてしまった。
羽の生えた炎がいるのか、光も僕と一緒に飛び跳ね、風の中に消えて行く。
光が走り出したそうに、大きく背伸びをするが、中心の芯に引っ張られ、抜け出せない。
僕は信じられない程の空転をし、その炎を吹き消した。
一筋の煙が空に上がり、自由に風の中へ。
僕も懸命に走り、風を掴む。
掴んだ風を輪に放ち、僕にも出来る、
出来るんだ!
と、輪を抱き抱え両手を前に伸ばし飛ぶと、腹ばいになって、炎に顔を近付けた。
目と鼻、口と小さな炎の熱を感じ、息を思いっきり吸い込むと、光りを吹き消した。
僕はその瞬間に、自分の大切な物が、少し、見えた気がした。
そして、急いで正面玄関に戻り、荷物をまとめ、二人のいる二階へ駆け上がり、ドアをノックした。
「こんばんは。どうぞ、中へ。」
ドアが開き、僕は部屋へ飛び込んだ。
「風を、風を掴んで、光の輪に、」
「輪は?」
「輪を抱えて、両手を伸ばして、」
「吹いた。」
「光は風と共に飛んで、全て吹き消した。そして、」
「見えたのは?」
「月と闇。
その、闇の中で少し見えたんですよ、
自分の中の、、、、。」
僕は乱れた呼吸を整えるが、一言では言い現せない気持ちで、上手く言葉が続かない。
「素描を見て少し気付いた時と同じなのでは?」
ドア越しに話をしていた彼は、納得したという素振りで、ドアを閉めると
「書き留めて置きますか?忘れないうちに。」
僕は、彼からノートと鉛筆を受け取ると、一心不乱に今の光りの輪で見えた事を書いた。
数枚ページに書き綴り、一通り書き終えると、大きく息を吐き出して、大の字に仰向けに寝転んだ。
肩の力が抜け、なぜか、ほっとした。
奥のテラスから、ワンピースにフードコートを着たあの女性が、グラスを持って現れた。
「紅悠さんのシードル、持って来て下さったんですね。私、大好きな んです。ピリッと少し辛くて。」
「あ、はい。美味しいですよね。細かい泡がいつまでも続いて。」
「、、、、ふふふ。同じね。私とおんなじよ。」
彼女は、にこやかにシードルのボトルを持つと °。゜。゜。゜。゜。
「テラスから外を、早く見てみて。」
。゜。゜。゜。゜。゜光の輪が全て消え、目の前には闇が広がる。
「時計塔の遠くの山から、明かりが照らされているでしょう。風の力を使ってる。人間の考える事は凄いですよ。」
「私も同じ人間だけど、ピアノを弾いてるわ。」
キャンドルにマッチで火を灯すと
「こうして、テーブルを照らす事と
゜。゜。゜消す事はね。
゜。゜。゜。゜。゜。今つけた明かりを一息で吹き消す。
「私がこの場を明るく照らす為にできる事。」
「願い事は、考えてたのかな。」
山の上から風車は回り、この洋洋を明るく照らしてくれる。ステージではまたきつねと河童の
僕の目にまっすぐ向かい、焼き付いた光の残像は、大空で輝く太陽の光りに、人間が考え、挑戦した光だ。
紅悠さんの真っ赤なリンゴ、そして、シードル。自然の中の剛駿さん、洋洋村の人達は戦い続けている。
背高さんは、ルビーを輝やかせ、太陽の光りの波の中、表現する人々。
そして勇魚をこの目で見た。
行司さんと走り、皆と出会い、僕に気付かせてくれた素描のこの地は僕に勇気をくれたんだ。
「月光の下で
「私はとんぼカゲロウがダンスしている様だったわ。素敵よ。音が聞こえたわ。」
「花の音も、鳥の声も、僕を支え動かしてくれました。僕は、今のこの僕は、僕である事。
だから今書き留めた物を、この箱に入れて置きたい。そして、この地、洋洋村の絵文字チップ。」
「絵文字チップですか。」
「私に、見せて頂いていいかしら。」
彼女は、手に取ると美味しそうにシードルを飲み、曲を弾いてくれた。
「機嫌が良い。君も彼女に灯りを灯したのでは?」
「僕は、そんな、いや、できれば素描をこの箱に入れて置きたいですけど。」
。゜。゜。「月夜で見えたのならいい。」
「いつもこの洋洋に?」
「いいえ、清らかな冒険と、希望の結晶を固める為に、かな。」
「僕、言継幸男って言います。次に、洋洋に来たら会えるかと。」
「
彼はグラスを置くと二階から外へ降りた。
一階のドアを開け、中に入ると、柔らかな色彩の花々、細やかな草草、そこに立つ、着物を着た女性のとても大きな、大きな絵があった。
僕の目に飛び込んできた、糸の様な柔らかい細い線は、
美しい着物の装飾まで、とても繊細に描かれていた。
淡い色合いや着物など古風でもあり、呼吸の聞こえそうな女性の立ち姿はとても印象的だ。
僕は暫く時を忘れて絵を眺めていた。゜。゜。゜。゜。゜
「綺麗な絵ですね。」
「絵絹を洋洋で創って貰っているんです。日本画描いてるもので。
岩絵の具になる天然の鉱物も、少し洋洋にありましてね。」
「それで、ここに?」
「ええ、まあ普段の自宅は他に。
洋洋は
手紙を受け取ってね。」
僕が、ここに来る事を彼らは知っていたのか。
「手紙って、猫が、猫が木箱で手紙を書いていた。その手紙、、、、 。」
「猫が手紙を書いていた。不思議で面白い。羽ペンを使ったか、大鳥とくぐいか、君は浪漫派だね。」
再び外へ出て行き、建物の裏へ向かうと、石板に水が流れ、土が置かれていた。
この場にも水路はあったのだ。
砂利が敷かれ、細かくなり、その奥にも小屋があった。
「水が豊かな村、洋洋とね。」
「洋洋と。」
「岩絵具、
深いざるに色土が洗われ、並んで置かれていた。小皿やいくつかの道具も。
「小瓶に入るのは、一握り。自分で掴むと。風を掴んだ時の様に、
解りますよ。」
僕は堵美野さんと再開を約束し、テラスから手を降る由希さんにも洋洋で会う事を約束した。
光りの輪は再び灯りが灯され、
林の中を走って行くと、灯りを持ち、歩く人の姿が見えた。
僕の足音に気が付くと、立ち止まり、こちらに向けて灯りを右左と揺らす。
「あなたが、言継さんですね。」
「はい。」
「光を飛んでいらっしゃいましたね。」
「はい。」
「全て吹き消されて。」
「、、、、、はい。」
「私の燈火はお役に立ちましたか?」
「あの光りの輪は、あなたが?」
「ええ。」
持っていた灯りを顔まで上げ、僕の顔にその人も近づき照らす。と、その人は、年配のご夫人だった。
僕の顔も確認すると
「
消えて解る事もあり。羨ましくは隣の庭かしら。」
このご婦人は、僕の心の中を見通しているのか、しわくちゃな笑顔でにこっ
と笑うと
「ご案内致しますので、どうぞ私に着いて来て下さい。」
と言って林の中を歩き始めた。
円形広場に戻るかと思いきや、左折して風車の照らすステージに向かった。
そこには、虎が二人で四つ手を組み、足を開き腰を屈め、小刻みに右へ左へと回り、取り組みが行われていた。
しかし、行司さんはいない。
虎は、互いの肩にバタフライ。両腕を進めで、突き合うと、そのまま小刻み
に動き出す。
それはまるで紙相撲。一人の虎が正面を向き、もう一人の虎は後ろ向き、手を振り、とその場で駆け足をする姿は、バスから見えた、あのスーツ姿の人物だ!
後ろ向きの虎には、やはりゼッケンが付けられている。
「理知遭遇」
正面を向いている虎は、振っている手を斜めに構え、胸をくり返し叩き、
ヒザを上げる。
「りぃーーーーーっ。」
ゼッケンの虎が叫んだ。
すると、両手を広げ波を現す。正面の虎は直立し、手を上に伸ばし合わせると
「りぃーーーーー。」
「私はリンゴを持っています。」
「ちぃーーーーー。」「ちぃーーーーー。」
「チューリップの花水溶けば。」
「そぉーーーーー。」 「そぉーーーーー。」
「私の
「うーーーーー。」「うーーーーー。」
「
「ぐぅーーーーー。」 「ぐぅーーーーー。」
「グラフィックスのメビウス輪、繋ぐ言葉は思想と現存、光の波長を形象表して、画報、印判、カタルシス。」
「うーーーーー。」 「うーーーーー。」
「
エネルギーの粒を掛けたら、一歩先へと並べ行く。太陽と共に。未来へ向けて。」
虎は腕輪を創り、両腕を広げ二人で組むと互いの腕輪を交互させチェーンを創る。
すると、手を横に伸ばし十字を創るとぶつかり合い、上に伸ばしてはぶつかり合う。
「プラ-ス、マイナース。」
又、交互させ、チェーン。
そして、何処からか音が流れ、ラジカセを担いだ紅悠さんが現れた。
紅悠さんは、後方で丸い玉に座りバランスを取っている。
虎は、腕をL字型に折り、空想の玉を回転させ、横に寄り歩くと、横の虎も横に押し出された。
「売り言葉に。」 「買い言葉。」 「隣の客は。」 「良くはちみつ食う客だ。」 「ああいえば。」
「来年の事を言えば。」 「笑う門に。」 「福来るか、笑い三年泣き三月。」 「雨降って。」
「地固まるけど、何処から降るの?」 「雲に汁。」 「思い立ったが吉日だけど。」 「
「空から雲が落ちないのは、人のふり見て我がふり直せ。」
再び腕を交互させると、風車から強い光が照らされた。
「粒粒粒粒粒粒粒粒。」
光りの帯が差され粒粒と細かく空気中のスターダストが降って来た。
紙吹雪じゃない。
「
そして、駆け足、片手で手を振り、空を仰ぐと、手を繋ぎウェーブをしている。
「吸ってぇ、吐いて。」
「美度を映し、透過するのは、赤い花水。」 「黄の花水。」
「青い花水。」
と、右へ左へ、あっち、こっちと方向指示をしている。
「太陽に動かされ、プラス、マイナス。」
「地球に住み、誰が宇宙をかき回す?」 「人は皆地球人。」「神秘の極みは、身を滅ぼす
「水の恩ばかりは報われぬ。」「空のダストは、地球のダスト。」
「重力が宇宙を守ってる。」
「人が宇宙に勝手に置くのは?」「宇宙バランスかき回し、人間バランスかき乱れ。」
「アマルコライト、ツーツーツー。」「惑星からの超新星ボム。ウィトロカイト。大気圏突入せよ。」
「マグマグマ。熱がダストを溶かし出す。」 「大気に包まれ、気流は流れる。風でダストは消滅せず。」
「磁界の波が信号破壊、走磁性ーー、方向を確認せよ!」 「酸性は、 反対!」
虎は拳を二つ重ねると
「
「地球を美しく。」
「みィーずゥノ惑星、水面反射ァ。」
紅悠さんが、丸い玉の上でバランスを取っている。
「地球上の物体は、地球上に存在する。」「超微粒子、吸ってぇ、吐いてぇ。」
「物体がこの瞳に見えるのは?」
バランスを取っていた紅悠さんが、虎の面を付け、三人で並ぶと、中央に立ち、横の虎と両手でタッチすると、反対側の虎にタッチした。
その虎は、面を返し青虎に。
紅悠虎が横の虎にタッチで黄虎に。
二人にタッチされ、紅悠トラは赤虎に。
すると、ステージの奥へ走ると、
大きな二重丸を描いた。
そして、紅悠さんは、バランスボールに立ち、その二重丸の中心に針を描いた。
長針と短針は時を刻む。
青虎と黄虎は、片手を伸ばし、片手のヒジを曲げ、小刻みに腕を時計の針に動かす。L字に曲げられた腕は前後と二人で逆回りに回転され、不思議と描かれた時計自体も回転を始めた。
紅悠さんが、バランスボールから下りると、青虎がバランスボールに座り、黄虎は時を刻む。
青虎は、
「少年よーー、青年よーー、一寸の
と、描かれた時計に、絵文字を描いた。
洋洋絵文字だ。
紅悠さんは
「朝ァ、昼ぅ、晩ンンーー。」
時計の中央にギザギザの滑車を描き、大きな太陽と月も描かれた。
黄虎は後ろに行くと、長い棒と短い棒を組み合わせ、その絵の中央の滑車に差し込み、身体ごと大きく回し始めた。時計の大きな文字盤は回り、紅悠さんもスライドしながら歩き出す。
アコーディオンの音が鳴り、気が付くと、燈火のご婦人が、メロディーを出していた。
闇夜に月が輝き、時が進むと太陽が顔を出し、それに合わせ時計もぱっと明るく照らされるが、アコーディオンのじゃばらが伸びると青虎が兵隊の様に動きだし、空気入れで自分も伸び縮み、膨らんだり、走っては屈伸し、じゃばらが縮んでは、辺りを見渡し遠くの風車を確認する。
続いて黄虎と交代し、黄虎も絵文字を描くとアコーディオンのメロディーに乗りながら、ライトを浴びる。
「風を測って、カエル飛び、二本足の思考距離と胸の奥の脈を測って、息を聞く。」
じゃばらが伸びては、忍者の雲隠れポーズを片足で取り、人差し指を伸ばして、後ろに下がったり前に飛び跳ねたり。
横に素早く動くと、後ろに描かれた時計に何か見える物がある。
青虎と重なり、部分、部分で二人並び、絵の前に立つと、巨大な一頭の象が二人の後ろに現れた。
大きな長い鼻を高く上げ、耳を広げ優しい瞳で立っている。
象は、雄大な自然の中で、力強くその大きさを現した!
紅悠さんは、再びレバーを中央に動かし、時を進める。
太陽が高く登り、月が隠れると、象の鼻から霧が吹き、草葉が芽を出した。
「
太陽も沈み、青と黄虎が頭を抱え、上へ下へと震わせる。
積雲の、魔法のランプの大男。羽も付け、時も空も膨らませる。
「発想のポップコーン。種で芽を出し。」「種も膨らめ。」「種も育 だて。」「種も捲く。」
中央に虎達は立つと、時計の針に洋洋絵文字を指し、言霊を直線で結び、
その組み合わせで、言葉は広がる。
僕の器の考・動・実。でも、それだけじゃぁ、ないんだ。
繰り返し言葉の時を刻む虎を見て、僕も腕を伸ばしステージ場の文字盤に時を指した。
「言継さん、、、、言継さん、読み組みされていらっしゃいますか、
お気楽にね、
なさって下さい。」
ご婦人はアコーディオンを抱え、小さく僕の隣に立つと、婦人の小さな指で、文字盤を指していた。
「耳で音として聞く文字と絵文字とって、
そのお持ちの器、考・動・実。
何かお考えになりましたか?」
僕は、文字盤の絵文字を指しながら、知らずに器を持っていた。
「あ、いや、僕は、はい。」
「いつか、お話して下さいね。
良いんですよ。それで。
さて、夜も更けて参りました。
どうぞお休み下さい。」
ステージの月と太陽、紅悠さん、虎を合わせて象と風車、絵文字で時を指す三人を後ろに、僕は、高床式の
建物へ向かった。
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