番外編
番外編1 浅葱色の慕情【1000PV Thanks!】
「こらーーーっ! 弱い者いじめするなぁっ!」
ここはとある海沿いの小さな村。夕暮れ時の広場に、一人の少女の声が響く。彼女の声に、群がっていた少年たちは悪戯な笑みを浮かべてはしゃぎ立てた。
「今日も来たぞー、怪力女だ!」
「あいつのパンチくらったら骨折するぞ」
「もしかして、ゴリラの先祖なんじゃね?」
「あはははは、ゴリ先! ゴリ先!」
少女はきっと口を結んで、少年たちを追いかけ拳を振り回す。少年たちは面白半分に彼女をからかいながら、広場から退散していった。
少女は肩で息をしながら、走っているうちにぼさぼさに広がってしまったおかっぱの髪を整える。出かける前はちゃんとセットしてきたのに。少女は広場にうずくまる少年に手を差し出した。
「大丈夫?」
「……うん」
少年は自信なげに少女の手を取り、よろよろと立ち上がる。着ている服は泥だらけに汚れてしまっていた。線の細いこの少年は、ことあるごとにガキ大将のグループにいじめられている。それを助けるのが少女の日課だった。
これはボディーガードを
助けられた後の弱々しげな少年の微笑みに、なぜか胸がきゅっと締めつけられてしまうのだ。
「そういえば……いつも助けてもらっているお礼に、プレゼントを用意したんだ」
少年は俯きながらぼそりと呟く。
「ぷ、プレゼント?」
少女は思わず声が裏返ってしまうのを誤魔化すように口を押さえる。
少年はもじもじとしながら鞄の中から何かを取り出す。それはかわいらしいウサギのぬいぐるみであった。
「これを、私に?」
少年が黙って頷くと、少女の顔はぽっと赤く染まった。いつも怪力だとか、男勝りとか、そんな風に言われる自分にはとても似つかわしくない代物が目の前に差し出される。ましてや男の子からプレゼントをもらえるなんて、人生で初めてのことだった。
「ありがとう……! 大切にするね!」
「で、あいつどんな顔してそれ受け取ったの?」
「なんかすごく赤くなってた。で、すごい目をキラキラさせてさ」
「うわ、それ見たかったぁ! オトコ女が、ぬいぐるみで喜んでる姿! それで、お前はどう思ったよ」
「……気持ち悪かった」
聞くんじゃなかった。
あの日からしばらく経った後、少女は少年たちがひそひそと話しているのを偶然聞いてしまったのだ。
いつもなら殴りかかって、黙らせてやったのに。ガキ大将の奴らも、ぬいぐるみをくれた彼も、べそかいて謝るくらい、ボコボコに。
しかし少女の目からはとめどなく涙が出てきて、彼らの前に姿を現わす気にはとてもなれなかった。
少女は走る。そして、家に着くなり部屋に大事に飾られていたぬいぐるみをむんずと掴んで、もう片方の拳を振り上げた。
「こんの…………バカヤローーーーーッ!!」
--ボフンッ!!
白煙を撒き散らしてぬいぐるみが巨大化する。ツギハギだらけで布も色あせたウサギのぬいぐるみは、ふよふよと宙に浮いて腕を振った。
「この二号を起動してくれはるなんて、久しぶりやなぁ。どうかしたん?」
「アイラとルカがしばらく遠方に出るからあなたについて行ってもらおうと思って。ほら、旅に出る前に破れてるところ縫ってあげるから見せて」
はぁいと呑気な声をあげてぬいぐるみは背中を見せた。ぬいぐるみの体を手にとって、片手で縫い針を持つ。ちくりと針が指に刺さった。もはや少女と呼ばれた時代はとうの昔に過ぎ去ったというのに、裁縫の腕は一向に上手くならない。長く伸びたストレートの髪を耳にかけながら、彼女は隣で見ている男に言った。
「馬鹿みたいでしょう。散々ストレス発散のはけ口にしておきながら、未だに捨てることができないなんて」
黒髪の男はギザギザの白い歯を見せて笑った。
「でも君はそのままでいい。優しくて、強くて、頼りになるんだから。なぁ?」
ぬいぐるみは勢いよく頷く。そのせいでまた針の位置がずれた。
「ノワールの言う通りや! それでこそうちらのご主人、シアンなんやからね」
「……ふふ。ありがとう、サンド二号」
針を持つ手は一瞬止まり、細く長い指がぬいぐるみの頭を撫でる。ぬいぐるみは気持ち良さそうに目を細めた。
***
皆様のおかげで1000PV到達しました!
ありがとうございます!!!!
記念とお礼に、初めて番外編を書いてみました。
即興だったので
そのうちノワールもシアンも本編にちゃんと登場する予定なのでしばしお待ちを……。
2016.03.11 乙島紅
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