裏ブラクロ(番外編・設定集)

乙島紅

ユナの旅行記(各章あらすじ)

ユナの旅行記1 魔法の国コーラント


 平和な雰囲気に包まれた魔法の国コーラント。誰もが『終焉の時代ラグナロク』や『契りの神石ジェム』なんて、おとぎ話だと思っていた。そう、ついこの間までは。


 いよいよ今日はヴァルトロの王子、ドーハさんとのお見合いの日。王であるお父さんが勝手に話を進めてしまった。私はまだ結婚する気なんかないのに……


 もうこの浜辺の小屋で自由にできる日も限られているのかもしれない。いつも通り誰もいない浜辺で歌っていると、その人は現れた。


 金髪に深緑の瞳……ずっと帰りを待ち続けていた人、キーノ。


 私は思わずその人を抱きしめる。どことなく、違和感を感じながら。


 彼は戸惑いながらもたくさんの話をしてくれた。世界の色んな土地や人のこと。でも、時間は無慈悲に過ぎていく。


 私を迎えに来たミントは言った。キーノはすでに海難事故に遭って連絡が途絶えている、と。彼はキーノではなくルカという名前なのだそうだ。


 思い出を断ち切って、私はコーラント城へ向かう。やってきたヴァルトロの王子と彼に仕えるヴァルトロ四神将の一人は想像していた姿とはまるで違っていた。どことなく頼りない、というか。とても世界で最も勢力を拡大している国の有力者にはあまり見えなかった。


 しかし、ドーハさんは堂々と言う。ヴァルトロは『終焉の時代』を終わらせようとしているのだ、と。信じられない。でも、彼らは確実に世界を見ているのだ。私はこの国から一歩も出たこともなくじっとしていて、このままでいいんだろうか。


 趣味は何かと言われ、歌を歌うことになってしまった。人前では歌いたくないのに……。歌ったのはお母さんがよく歌ってくれていた子守唄。


 ドーハさんは感動したのか、涙を流しながらいきんで結婚を申し込んできた。お気持ちはありがたいんだけど、まだよく分からない。戸惑って後ずさりしていると、ドレスの裾を踏んで後ろに転びそうになった。支えてくれたのは、なぜか女装をしたルカだった。やっぱり自分の気持ちに嘘はつけない。そう思ってドーハさんの申し出は断ることに。


 世界の実権を握るヴァルトロとのお見合いが破綻したことで、お父さんは今までに見たことがないほど怒っていた。考え直す気がないなら勘当してコーラントから追放する、明日までにどうするか考えろ、と。


 一人で考え事をしたい時は、よく入り江の洞窟に行く。女神様の石板を見ていると、なんだか元気になれる気がして。


 歌を歌っていたらルカがやってきた。何でここにいるのが分かったのと問うと、彼には神石や眷属の声が聞こえるのだと言う。コーラントの魔法の元となっている、桜水晶にも眷属が宿っているのだ、と。


 ルカは私の悩みを聞いてくれた。話しただけでも、十分すっきりした気がする。それに、彼自身のことも少し知れて。私はそろそろ前に踏み出さなきゃいけないのかもしれない。ルカが言った、私にとって相応しいこと、それは--


 翌日、コーラントは朝早くからとんでもない騒ぎになっていた。国中の桜水晶が力を失って魔法が使えなくなったのだという。ドーハさんは、ブラック・クロスの人たちがこの国の眷属の力を奪った可能性があると言う。彼に見せられた手配書には、ルカの顔があった。


 ドーハさんの手の痕、それに朝から聞こえる嫌な音……私はドーハさんに頼んで、ヴァルトロの飛空艇ウラノスの中に案内してもらうことに。


 飛空艇には不思議な機械があった。桜水晶を取り込んでいて、座標がコーラント全土に指定されている。桜水晶の力を使えなくしたのは、ヴァルトロの人たちだった……そう思った矢先、背後には四神将のキリがいた。


 キリに脅されて、自分の力の無さを実感する。でもくじけてしまいそうになった時、ルカの言葉を思い出した。そう、はじめから答えは一つしかなかった。私は、私の大切なものを捨てることなんてできない。


 お母さんから受け継いだバングルから、不思議な声が聞こえてきた。とにかく歌えと言われ、頭の中に浮かんだ旋律を口ずさむ……すると、部屋全体が揺れてキリの力が弱まった。その隙に桜水晶の力を封じていた機械を止める。安堵したのもつかの間、キリはすぐに立ち上がり、私はなぜか逆に力が抜けてしまって絶体絶命だった。


 紫色の光とともに、ルカが姿を現した。黒い大鎌を携え、時の神クロノスの力を操る--それがブラック・クロスのルカ・イージス。ルカはキリが召喚した破壊の眷属たちをいとも簡単になぎ払っていった。


 キリは破壊の眷属の特異種、妖樹ドリアードを召喚する。さすがのルカも、急所を庇いすぐに再生してしまうドリアードには苦戦する。私にも何かできないか……そう思っていた時、ドリアードが桜水晶を取り込んでいたことを思い出した。桜水晶に向かって私が歌うと、神石の力が干渉するせいで爆発が起きるのだ。ドリアードがひるんだ隙に、ルカがとどめを刺す。


 私たちはアイラさんが奪ってきた飛空二輪にのってウラノスを脱出した。なんだかすごく疲れた。でも、どこかすがすがしいのはなぜだろう。


 ヴァルトロの飛空艇は、真実を明かさないままコーラントから出て行ってしまった。人々は魔法さえ使えればそれでいいと言わんばかりに、この国に何が起こっていたのかなんて気にしないんだ。


 このままではまた同じようなことを繰り返す。変わらなきゃいけない--まずは、自分自身が。


 私は世界を知る旅に出る。コーラントが『終焉の時代』を生き抜く術を見つけるために。そして、キーノの行方を追うために。


 ルカは快く私を旅に誘ってくれた。キーノを探しに行くのに、キーノにそっくりなルカと一緒に旅をするなんてなんだか不思議な気分。


 『終焉の時代』、『契りの神石』、そしてそれを巡る人たち--。まだわからないことばかりだけど、私は確実に一歩踏み出したんだ。そう思うと、なんだか胸が高鳴る。まだ見ぬ世界は、もう目の前にあった。


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