第20話 「事故物件サイト1」

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インターネットがパソコンオタクたちの手を離れ、企業情報システムの基盤として構築されたあとに、あっという間に一般市民にも普及すると、人々は少々専門的な情報を得る方法を、情報入手に時間がかかる専門書などの紙媒体よりも手軽で迅速なインターネット上の専門サイトを選ぶようになりました。


僕は「趣味なんじゃないか」と知人たちに揶揄されるぐらい引っ越しの回数が多いのです。もう、2~3年住むと飽きちゃうんです。だから荷物は資料ぐらいにして身軽にしているんです。引越し先で気になるのは事故物件です。だって、死んだ方々には申し訳ないですが、自殺者や突然死に孤独死が出た部屋なんかに誰も住みたくはないでしょう。だからできるだけ新しく建てられた物件を探します。新しければ自殺者がいないというのもおかしな理屈ですが、古い物件よりも少ないと思うからです。僕は新しい物件でも安心はしません。そこで事故物件サイトを閲覧するわけです。


事故物件サイトというのは文字通り事故物件情報が掲載されているインターネット上にある専門的な情報閲覧ページのことです。サイトを運営しているのは一般個人だと聞きます。インターネットに関しては知識が薄いのでこのサイト目的は不明ですが、僕の友人のひとりは「大半はアフィリエイトとか小金が入る仕組みになっているのだけど、このサイトはそんな仕組みは見受けられない。多分趣味でやっているんだろう」と言っていました。


収入目的ではない、趣味でというならば、情報はルーズになるのが普通ですが、このサイトはかなり正確で、情報もまめに更新されているようです。その証拠に3日前に自宅の近くで首吊り自殺があったのですが、その記事が新聞に小さく載った日にサイトには事故物件としてその情報がアップされていました。


今回の引っ越し先は仕事場の近くに3年ほど前に出来たマンションの一室です。築3年ですから事故物件なはずがないのですが、一応、事故物件サイトを参照してみました。やはり、マンションのいずれの部屋も事故物件ではありませんでした。実際にその物件を担当している渋谷の不動産屋を訪ねてみて驚きました。


「安いよね、築3年で青山のあんな広い2LDKでさ、家賃15万円なんて部屋があるのかね? 事故物件じゃないの?」

「築3年で事故物件なんてあるわけないでしょ? もともと分譲マンションだったんだけど、あの部屋を買ったオーナーが急に海外に移住することになってね、それでもいつかはこっちに戻ってくるから、その間、人に貸してくれってことになったんですよ。本当だったら50万の家賃でも安いけれど、そのオーナーがどうしても15万で貸してやれって言うもんだからね」

「ふーん、どうしてだろう? 家賃収入が多い方がいいだろうにね…」

「ね、うちも家賃高い方がいいわけでさ」

「で、こんなに安いんだから今までも借り手はあったでしょう? 」

「それがね、家賃が安いと、あなたがさっき言ったように事故物件じゃないかって勘ぐられるわけですよ、違うって言えば余計信じられなくてね…ま、うちも入りが少ないあんな物件なんかどうでもいいから積極的に勧めないしね。だから借り手がいなかったってだけですよ」

「なるほどね。オーナーが帰国するまでの限定賃貸ってのもマイナス条件だしね」

「そうそう、それも大きなマイナスですね」

「で、どのくらいでオーナーは帰国するの?」

「多分だけど、3〜4年だと思いますよ、3年がいいところかなぁ」

「僕も飽きっぽくて、引っ越し魔って言われるぐらいだから3年住めれば立派なもんだよ。でも更新は2年でしょ?」

「ああ、基本的にはそうですね、オーナーも途中で強制的に出ろなんて言わないでしょ…保証はできないけど4年は住めるでしょうね」

「うん、決めた」


それから2週間後に僕はそのマンションに引っ越しました。

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