君と僕との先回りの約束。
いちごみるく
プロローグ
桜並木を通り過ぎて、段々と増える同じ制服を着た学生を眺めながら目的地へと向かう。家から電車で3駅、そこから徒歩10分。この生活が始まってもう1年も経つが、特段変わったこともなく日常を学業に費やしていた。小中と他人との接触を拒み続けた私。高校でもそのスタンスを変えるつもりはない。ただ平凡に過ごせればいい、あと2年、そうやって無事卒業できればいい。
新学期、2年生。隣を通り過ぎる2人組の女の子が「後輩ができるね〜!」と楽しそうにはしゃぐ。後輩。私には関係のない話だ。部活や生徒会には入っていないし、なにより同級生ですらできるだけ関わりたくなかった。
空気のように、波風を立てないよう今まで通り。ただ、静かに暮らせれば、それでいい。
4月。身の周りのことにあまり興味はないが、この時期の少し霞んだ空気とそれに踊る桜の花弁は好きだった。あちらこちらに春を具体化したような花吹雪が舞う。少しだけ大きく息を吸い込んで、新しい学年の何も変わらない生活を見据えるように、学校へと踏み込んだ。
教室へ入ると、クラス替えがあったにも関わらずいつにも増して騒がしかった。
私の学校は2年生になると特進、選進クラスに分かれる。特進といっても、大学進学を目指す生徒はみんな特進を選ぶから、特別成績がいいとかじゃないけど。
選進は、保育の仕事や公務員、あと専門学校を目指す人達が選ぶ。私は特に将来の夢なんて決まっていないので、とりあえず特進へ進んだ。勉強は嫌いじゃなかった。成績はいつも学年トップ争いをしていたが、あまり興味はない。たまたまだ。
新担任が閻魔帳をもって教室へ入ってくる。生徒がそれぞれの席へ散らばって静かになった。たぶん、担当教科は体育。そんな事がすぐに分かるぐらいには熱血っぽかった。初めて見る先生だから、今年この学校へ来たのだろうか。初めて担任を持つので緊張していますが、精一杯頑張りたいと思います!と勢いよく挨拶をして、出席をとる。そして始業式が始まるから講堂に集まるように、と指示を出して出ていった。
長い長い校長の話が終わって、恒例の表彰式に移る。確か、うちの学校は水泳部と柔道部が強かった気がする。
予想通り、水泳部の団体が県大会で1位をとった、との表彰があった。嬉しそうに賞状を受け取るキャプテンらしき男の子は、まだ4月というのに肌がほんのり焼けていた。
そんな様子をぼーっと眺めていると、表彰式の司会をしていた教頭が、軽音同好会、と読み上げた。こちらは…なんと九州大会で優勝したらしい。同好会の癖によくやるもんだ。会長が休みなので副会長が代わりに受け取ってください。というアナウンスの後に、そうであろう男の人が壇上へ上がる。スタイルが良くて、バンドが似合う、と想った。それから、ソフト部、テニス部の他に写真部など文化部もたくさん表彰され、始業式は終わった。
始業式のあと、すぐに家へ帰ってベットへ飛び込んだ。なんだか今日は疲れた気がする。明日からはまた、授業が始まるから今のうちにたくさん寝ておかないと後悔する。心地いい疲労感は、自然に睡眠へ導く材料として充分だった。
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