足元

 昼間降り出した小雨は夜には雪へ変わっていた。バイトを終えて、着替えもそぞろに、ミキは裏口から町へとびだす。冷気が顔に張り付いた。そいつを吸うと、鼻の奥が熱くなる。胸がふくらむ。持ってきた傘は置いていくことにした。少し迷ったが邪魔なだけだ、せっかくの初雪は全身で味わいたい。手袋も外して帰路につく。

 裏通りは昼間よりずっと明るかった。靴底ほど薄く積もった雪が、街灯を吸い込んで白んでいる。音までも吸収してしまって静かだ、ためしに耳を澄ましてみると、しんしんと雪の積もる余韻が聞こえて安心した。

 ミキが大通りへ出ると、光は一層にぎやかになった。横一文字に並んだ木々は電飾をまとい、深海に光るクラゲよろしく好き勝手色をとばしている。

 他に人影は見当たらなかった、スマホを取り出せば日付が変わろうとしていた。独り占めするのがもったいなく思ったのでそのままコールする。初雪のうちに話をしたかった。

 3度目の呼び出しで母はでた。

「もしもし母さん、今日は初雪が降ってんだべさあ――」

実家の方はもう3メートルは積もっているそうだ。この町は足元にも及ばないな。

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