前編PARTⅠの2 ハートの模様のある猫
できることなら、すぐにでも誰かの手を取って確かめてみたかった。でも、まわりは知らない人ばかり。
なんで? 信じていたあの人に裏切られたショックが原因なのかな?
でも、それが原因でこんな風になるなんて、聞いたことがない。人間じゃなくなっちゃったのかな?
きのう、ノゾミは手痛い失恋をした。ショックできょうは会社を休んだ。
部屋にこもって独りでうじうじしていても暗くなるばかり。気晴らしに渋谷に出てきて、自分がこうなっていることを知った。
ああ、このまま石になっちゃうとか・・・・。そうなった時に、胸の痛みも感じなくなっちゃってたら、それはそれでいいのかもしれないけど。
でも、やっぱりそんなの嫌。
もしかしたら胸の痛みだけは残ったまま石になっちゃうかもしれない。そうなっちゃったら最悪・・・・。
そんなことを考えながらうつむき加減でふらふらと歩くノゾミはあっと小声を上げて立ち止まった。
白い猫がちょこんと行儀よくとお座りして、ノゾミを見上げているのと目があった。
いきなり猫の目がクローズアップで近づいてきて、吸い込まれるような感覚をノゾミは覚えた。
目の前が一瞬真っ白になって、グルリと縦に一回転したような気がした。
気が付いたとき、猫は目の前から姿を消していた。
――あれ、どこにいったんだ?
きょろきょろ見回した。
それはすぐそばの大きな本屋の入り口の脇に前足をまっすぐに立てて座ってこちらを見ていた。
ノゾミは思わず歩み寄った。猫はニャ~と鳴き、立ち上がって本屋の中に向かって歩き始めた。
――あ・・・・
白い猫の背中には、ピンクの毛でできたハートの模様が入っていた。
――ピンクのハートなんて、飼い主が染めちゃったのかな?
ノゾミはあとを追って、人でいっぱいの本屋の中に入った。
とっても可愛い猫。なのに、ノゾミ以外は誰も気づかない。猫は平積みになっている雑誌の一冊の上にピョンと飛び乗ると、
ノゾミを見ながらお行儀よく雑誌の上に座った。
ノゾミは一メートルほどのそばに近づいた。猫はノゾミに向かってニャ~と鳴いた。
ノゾミは猫を抱き寄せようとゆっくり両手を差し出した。猫は座っていた雑誌を爪で素早くひっかいた。
「だめ」
ノゾミは思わず叫び、猫を抱きしめて雑誌から引き離そうとした。
猫は素早くその手を避けて身をひるがえし、さっと駆け出して本屋の奥に姿を消した。
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