第23話 太秦広隆寺の戦い

 風守カオル一行は昼食を済ませて、嵯峨嵐山駅から太秦駅まで電車に乗った。


 太秦駅で降りると、太秦の広隆寺の境内に入って行く。

 境内に入ると、外の喧騒は嘘のように静寂につつまれ、不思議な時間が流れはじめる。

 一行は石畳をしずしずと歩いていく。


 広隆寺といえば、聖徳太子が秦河勝に仏像を賜って創建した寺院で秦氏の氏寺でもある。

 聖徳太子、薬師信仰、弥勒菩薩半跏像も有名である。


 京都の三大奇祭の牛祭というものもあるが、仮面をした摩多羅神またらじんが牛にまたがり松明を掲げ、赤鬼、青鬼の仮面をつけた四天王と一緒に祭文を唱えながら練り歩くというものである。

 薬師堂の前で祭文を唱え、参拝客が罵詈雑言を浴びせて、最後は薬師堂の中に逃げ込むという。

 

 災厄退散の祭であるが、摩多羅神は比叡山では現世利益の神、麓の赤山禅院では泰山府君という人の生死を司る冥府の神、道教の神だと言われる。


 また、インドのマーラー女神ともいわれ、マーラーとは瞳、星という意味もあり、マダラ神の被っている頭巾には北斗七星が描かれている。 

 つまり、摩多羅神とは冥界、常世との境界を守護する神である。

 

「そろそろ、姿を見せたらどうじゃ」


 雛御前が振り向きざまに呼ばわった。

 秋月玲奈もゆっくりと振り返る。


 飛騨、舞、カオルも振り返るが、その表情には精気がなく、動きも人形のようにぎこちない。

 

「変わり身の術ですか。一杯、食わされたようですね」


 漆黒のゴスロリ風のブラウスとロングスカートを着た少女が姿を現す。

 スカートの白いフリルが揺れる。

 さほど暑くはないはずなのに黒の日傘をさしている。

 青い澄みきった瞳と白い肌が人形のような美しさを見せていた。


 雛御前がしゅを唱えると、飛騨たち三人の姿が人形ひとがたの和紙に戻って、ひらひらと雛御前の手に還っていった。


「なるほど、すでに四方に式神を配して結界も展開済みですか」


 ゴスロリ少女は独り言のようにつぶやいた。

 青鬼、赤鬼の仮面を被った式神が正方形の結界を張って、三人を通常空間から遮断していた。


「玲奈殿、武器は何がいい?」


 雛御前の問いに玲奈が答えた。


「打撃系の破砕棒をお願いします。ちょっと硬い敵が来そうなので、ぶん殴るしかなさそうです」

 

 破砕棒というのは八角形の鉄の棒に星と呼ばれる鋲を打ちつけたものである。

 いわゆる「鬼に金棒」の金棒であり、打撃によって相手を破壊する武器である。


「よし、これを使ってくれ」


 雛御前はそういいながら鉄棒を空間から取り出すと玲奈に渡した。


「では、恥ずかしけど自己紹介しとくわ。魔法少女レイ・ストライカーです。クラスはゲームマスター、勝利条件は東日本の壊滅です。以後、お見知りおき下さい」


「うわー、二回目だけど恥ずかしですね。新宿ではどうもでした」


 秋月玲奈は珍しく皮肉を言った。

  

「まあ、好きに言いなさい。私はゲームをクリアするだけよ」


 レイ・ストライカーは平然と受け流す。

 彼女は≪異世界侵攻軍≫という謎の組織の一員らしく、六本木アンダーヒルの爆破事件、新宿騒乱事件にも関係している人物である。≪天鴉アマガラス≫からも指名手配されている重要参考人である。


 この世界の破壊工作自体が異世界人の『ゲーム』であり、それをクリアすることが『デスゲーム』から抜け出す唯一の方法らしい。彼女たちも一種の被害者とも言えるが、この『ゲーム』を仕組んだ存在が見えない以上、とりあえずの敵として戦うしかない相手である。


 レイ・ストライカーは黒の日傘をたたむと、一振りして機械天使ドローンを召喚した。

 百機あまりの機械天使ドローンが秋月玲奈の眼前に忽然と現れた。


「では、ゲームスタートということで」


 ゴスロリ少女は妖しく微笑んだ。


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