第12話 雛流しの呪法
風守カオルが京都府警から依頼された「雛流しの呪法」事件というのは、一見、連続殺人事件のように見えるものだった。
すでに、京都の各地で十数件もの事件が起こっていて、被害者の殺害現場にいずれも『流し雛』が発見されている。そして、被害者の手足があらぬ方向に折り曲げられて殺されているという共通点がある。
とても人間の仕業ではないと思われること、状態からして、おそらく昨年、持ち帰られて家に飾られた『流し雛』が犯行現場に残されているではないかと思われた。
下鴨神社の『流し雛』は一度、家に持ち帰って、一年間、飾られて、災いから持ち主の身を守り、厄や穢れを引き受けて御手洗川に流されることになっている。
『流し雛』の原形は縄文時代からある草などで作られた
土偶や古墳の埴輪も同じ用途で使われていた可能性がある。土偶が粉々になって遺跡で発見されるのは呪術的祭祀が関係しているし、『日本書紀』の垂仁紀によれば、
その後、時代が下ると、
天児(あまがつ)は三十センチくらいの二本の竹の棒を束ねて人形の両手にし、別の竹をT字型に横に組合わせて人形にしたもので、丸い頭を白絹の布で作って簡単な衣裳を着せ、幼児の枕元において魔除けのお守りとした。
その後、この
という話をネットなどで必死に調べてしまったカオルだったが、事件の解決に寄与する成果は全くなくて、単ある無駄な知識、トリビアとし彼女の黒歴史になりそうだった。
そもそもカオルの専門は
ただ、今回の犯人はおそらく人間ではなく、その妖怪やらもののけの類であるという京都府警の結論に対して異論もないし、カオルの見立てでもそれは間違いないことであった。
かわいい童子の姿をした悪童丸という使い魔の道神は、常世との境界を封じる道祖神、強力な呪力を持つ境界の神であるが、今のところ、出番はなさそうで、雛子というもののけとのんきに遊んでいた。
ちなみに、悪童丸の父親は吉備の地霊で鬼神の
下鴨神社の楼門をくぐって、土産物屋で雛子に『
糺しの森の小川に、回収され忘れたらしい流し雛がひとつ浮かんでいた。
そのまま川を流れていく。
とにかく、この流し雛の謎が解けないと事件の解決はなさそうだった。
何か呪術的意味があるに違いないが、「雛流しの呪法」事件というのはなかなかセンスのいいネーミングかもしれない。
カオルは不得手な頭脳労働をしながら、糺しの森を抜けて参道を下っていった。
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