第16話 ぽっきー?

「ただいま」

 忍者の如く消え去ったヒイロが帰って来た。

 現在、俺は大粒の涙を流している娘チルルの前で謝罪しているのだが。

 長女のヒイロの目に、この光景はどう映っているのだろうか。

「私が長女だったんだな」

 そうなんです、貴方が栄えある火疋澪の『長女』の称号を冠しているのです。


 それで、

 四姉妹の中でも一番尊厳があって、発言力の高いモモノが二女で。

 蠱惑的で、性的興奮を扇情する自由奔放な娘のマリーが三女。

 特段言うことのない純朴なチルルは消去法で四女となる。


「ひっ、く、ひっ、く、ひっ」

 前言ったように、チルルは俺と出逢って以来、学習することを覚えた。

 今は控えめに泣いているが、これが四女チルルによる嘘泣きの可能性もある。

「アィアィァ、ぶふぅっ、ひっく、えひぃ、ぁふっ、ん、ぁんぇがっぷ」

 っにしても、何とも「不っ細工な泣き方」だ。

「父さんはチルルに対しては情け容赦ないな」

「贔屓だぞ、この野郎ぉぉ」

「落ち着けチルル、世の中『馬鹿な子ほど可愛い』っていう格言があるぐらいだ」


 俺達、ホウレン荘の住人は生活に困っていない。

 適度に生活費を支給されているし、光熱費は全てロハだから。

 だから、チルルに謝罪であったり、見合った対価を支払うには。

「ひっく、ひっ、ひっく」

「なぁチルル、お前を泣かせてしまったこと、謝りたいと思うんだ」

「――止めろ父さん、何がカラダで謝るだ」

 ジョークの一環で「カラダで許してくれ」と言おうとした時、モモノから制止される。


「その子はまだまだ純心なんだ、多感な年頃の最中に、ちょっと惹かれる異性から好意を向けられたらとんでもなく、馬鹿な娘に育つぞ。例えば……そうだな」

 モモノは一度瞼を閉じて、瞑想をしだすと。


 俺の名前は火疋澪、女々しい名前が玉に瑕だけど、基本はナイスガイだじぇ。

 何故俺がナイスガイか、証明して見せろだと? OKボーイ小僧

「なぁチルル」

「何だよ」

 俺は恋人である彼女とはいつも寄り添って、お互いに心を補完し合っている。

 俺がナイスガイであるその証明、だったな。

 なら話は早い。

「OKボーイ、OK、Oh~、OKボーイ、Ohh、ィエスっ」

 どうだ、俺はナイスガイだってこれで分かってくれただっろ。

「なぁミオ、ボク達はこんな関係を続けて」

 ――ホントウに、これで幸せって言えるのかな?

 チルルは昔よりも大人になったと思う。

 自分の今の在り方を、幸せとして定義出来るか照らし合わせて、彼女は悩んでいた。

 一概に、俺が悪いんだろう。

 俺があの時――カラダで許してくれ、何て言ったから。

 娘だったチルルは俺を意識し出して、「娘じゃそろそろ不満かな」と言い出し。

 或る日、彼女は俺を学園の屋上に呼び出し、告白してくれた。

 俺は数瞬悩んだものの、底が知れない彼女の真摯な眼差しに圧倒されてつい。

「OKボーイ」

 チルルの告白を受けてしまったんだ。

 そして俺達は付き合うようになった、俺達は親子から恋人関係になれたんだ。

 んで今。

 チルルは俺の傍らで寝転がりながら、つぶらな瞳を俺に注いでいた。

「……OKボーイ、カモンボーイ」

 俺達は青々しい若さを、ホウレン荘に居る他のみんなに見せつける様に睦み合っていた。

「ふぅ、私も誰か“いい人”でも探すとするか」

「……」

「お前もそう思うかクソアマ、奇遇だな」

 マリーやヒイロは俺達の仲を疎ましく思っているみたいだけど。

 俺は決めたよ、この世界で、いつまでもチルルと一緒に戦い抜いてやるんだ。

 そうだろチルル、俺達は――

「OKボーイ、OK、Oh~、OKボーイ、Ohh、ィエスっ」

 俺達は、いつまでも戦い続ける。

 

「どうだ、あのまま私が止めてなかったら、二人はこんな感じに」

「なる筈ねェカラっ……!」

 モモノは例の未来予測『モモノ理論』を駆使して一つの未来を導き出したが。

 こんな未来、在りえる筈がないだろ、OKボーイ。

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