第14話 エリート改革
「……しかしだな父さん、お前は存外生命力が強い。RPGで言うところのHPと
「
モモノ先生、俺の娘にして『モモノ理論』という独自の未来予測を確立した一種の化け物だ。
モモノ理論は天地万物、つまりはこの世のあらゆる事象の先を的確に読み取る。
そのため、彼女は十七の頃から様々な企業、業界に助言を授け、見返りとして大金を頂戴していたらしい。
が成功報酬であるから、他人には真似出来なければ文句を言われる筋合いもないと鼻を高くする。
「それにお前、学園長とのパイプがあるなら彼に直接頼めばいいじゃないか。役職としては彼が一番偉いのだから。何もドゥエス教官に見殺しにされそうになったからと言って、死馬教官の愛が怖いからと言って、屁理屈ごねては学科を転々とする。そんな特例が許されてるのは学園長との懇意があるからじゃないか」
そして俺は昨日付けで諜報学潜入科から整備科へと転科した。のだが、
昨日の出来事からも分かって貰えるように、整備科に居たらマリーが怒る。
だから俺は今一度の転科を、担任であるモモノ先生に申請しに職員室までやって来た。
「……では、次は常士学園で一番オカルトな学科にしてみるか」
「ありがとうございます!! それで、学園一のオカルトな学科の名前は?」
【退魔学結界術科】
その昔、日本が東西に分裂する元凶となった存在が居た。日本人は其れの名を『
「……ありがとうございます」
「不満か? 先程より語気が弱弱しくなったな」
不満たらたらだよ、そんな気が狂いそうな学科を紹介された身となっては。
降魔? この世界にはそんな化け物が存在してたのか。
過去形ってことは絶滅したんだろうけんども。
「モモノ先生、現在その降魔は絶滅したんですよね?」
「だと思うか?」
「へ?」
モモノの切り返しに、俺は口から頓狂を吐いていた。
降魔は今も尚この世に存在する?
俺の娘達はそんな危険生物が徘徊している世界に住んでいるのか。
「実を言う所、と言うか火疋……はぁ、面倒だ。父さんの物臭な性格直してくれないか」
「ならチューさせろよ」
「は?」
降魔の存在に脅かされ、妄想が爆発し。
俺の思考は物語のクライマックスを乗り越えモモノとのハッピーエンドを迎えてました。
「……はぁ」
モモノ先生は今一度嘆息すると、椅子を回して背中を向けた。
「降魔に付いては父さんが関与することじゃないか、お前は入る学校を間違えたな、火疋」
「と言われましても……俺には他に行く所がないですから」
「まるで昔の私みたいだな。ほら、この書類を持って、大人しく
モモノは斜向かいを指で差し、降魔学の担当である東雲教官を紹介してくれた。
「……」
「どうした、早く行けと言っただろ?」
「その三つ編み、お前の綺麗な髪にはよく似合ってるよ」
肩甲骨まで伸びた彼女の白髪は一本の三つ編みに結われ、左肩から垂れ下がっている。
白髪というだけでも俺の関心を惹くのに、アレンジを加えるなんて卑怯だなって思う。
つまり俺は娘に嫉妬してるんだろうな。
その後俺はモモノ先生から紹介された東雲教官の許まで行き、渡された書類を預けた。
「……私の名前は東雲大和、名は漢らしいが、一応性別は牝だから留意するように。からかってくれても構わん」
「今日からよろしくお願いします」
東雲大和、ラップ型のサングラス姿が映える美人だった。
外見年齢は死馬教官より若々しいから
「どうでもいいことを一つ訊いてもいいですか? どうしてこの学園には女性職員が多いのでしょうか」
「確証はないが、学園長の趣味という説が最も有力らしいな」
っのハゲ、後で握手しに行ってやる。
「この世の中、どうしようもない人達だらけで困りますね」
「確証はないと言ったはずだ、お前の名前は何て読むんだ?」
「ヒビキミオ、です。名前は女性らしいですが、一応付いてる物は付いてるんで」
俺の名前の読み方を教えると、東雲教官は振り仮名を記入する。
この時点で分かるのは、彼女の律儀な人間性だ。
律儀で、きっと口が堅くて、氏素性も不確かなサングラス美人……怪しすぎるわっ。
「では私と一緒にクラスに向かうか火疋」
「あ、はい」
席を立ち、退魔学科のクラスへと案内する教官の後ろを付いて行きながら、
俺はモモノの机を見やっていた。
――数時間後。
授業内容の半分も頭に入っていない、この学科はまず間違いなく暗記科目に分類される。
辛い、退魔学科は普通科、諜報学潜入科とは質の違った辛酸がある。
それに、クラスメイトの連中はやけに『エリート』と言う単語を乱用する。
例えば、クラス紹介の時。
「ふふふ、やぁ常士学園のエリートが揃う、エリートクラスへ、エリートようこそ」
例えば、授業中。
『火疋くんってヒイロ先輩とエリート仲良いんだろ? エリートな、エリートだな』
例えば、昼休み。
「火疋くん、一緒にエリートしよ? え、それはその、エ、リ、イ、ト、だよ」
退魔学科の生徒は『エリート』を副詞、感嘆詞として用いるエリート連中でした。
もちろん嫌味のつもりですよ、降魔スマイル。
降魔スマイルと言うのは退魔学科で最初に習う表情の作り方で、
降魔が存在していた頃、人は降魔と和睦出来ないか試行錯誤して降魔スマイルを発明した。
降魔スマイルの要領はアインシュタインの肖像を真似ればいい。
「それではお前等、本日の授業はこれで終了とする。今日は火疋という新しい仲間が入って来たことだし、この後で歓迎会なんぞ開いてやればいいんじゃないか」
そして本日の授業が終わり、東雲教官が帰りのHRで俺の歓迎会を仄めかしていた。
さっき俺にエリートしようと誘って来た彼女は歓迎会と言いたかったのか、
俺はてっきり、セッ○スだと思ってた。
エリート達の温かいお誘いを、俺は甘んじて受け入れた。
実際、退魔学結界術科の生徒達は能力的には本物のエリートと言っても相違ないそうだ。
この学科から輩出された著名人は数知れず、筆記試験でも上位に名を連ねている。
「それに」と、エリートの一人が言及しようとした時、彼は口を手で押さえられていた。
どうやらこのクラスには隠された秘密があるようだ。
「所で、今何時」
「あー、もう九時か。そろそろお開きにするか」
――あー、もう九時か――もう九時か――九時。
九時? ……マズイ、はああっ、気付けばケータイに娘達からメールやら着信が入っている!
急いで帰ろう。
「た、ただいまっ」
「お帰りダディ……朝帰りとは、これは私に対する挑発か?」
そう、九時は九時でも時刻は午前九時を指していた。
今日は休日とは言え、いくら何でも気を緩め過ぎた。
怖いことに、マリーは101号室で俺の帰りを待ち侘び、現状は怒っている様子だ。
「歓迎会だったな、誰かいい女の子でも居たのか?」
エリートとは何ぞや。
エリートの印象は選民思想が強くて、高慢で、居丈高な人を指すと思っていた。
しかし、退魔学科の生徒達はエリート優しくしてくれる。
これは、俺の中でエリートに対する意識改革が起こりそうだぞ。
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