iroha.sys

好風

プロローグ 『?』

 薄く見開かれた瞼の隙間に緋色に染まった陽光が射し込み、ソレは小さく身動ぎ始めた。

「う……ん……」

 二度、三度と瞬きをすれば、ピントが合うように視界がクリアになっていく。右へ左へとその瞳を泳がせば、視線の先が覚えのあるプログラム研究部の部室だと見て取れた。

 ソレは、自分が何故そこにいるのかを考えるのだが、まるで記憶の一部分がすっぽりと抜き取られたかの如く、この場に到るまでの道程が思い出せないでいた。

 怪訝そうに眉を顰めつつも、ソレは動くことにした。

 じっとしていても始まらないからだ。

 二歩、三歩と足を踏み出すも、違和感に足が止まる。その原因を探るようにと視線を足下へと落とす。

 そして一拍の間を置いて、

「なんじゃこりゃ!?」

 ソレは綺麗な声音には似つかわしくない絶叫を上げるのだった。

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