夏休みの花火を君とみる

Sin Guilty

序章 夏休みの花火を君とみる

 夜空を、無数の花火の光が埋め尽くす。


 打ち上げが始まる直前まで、虫の音がりいりいと響いていた二人の内緒の場所も、打ち上げられ、爆ぜる花火の轟音に包まれる。


 夏。


 約束の夏がやっと来た。


 にとって夏の象徴である、海の無いこの街の花火に染め上げられながら、二人してり散る光を眺めている。


 花火の残響に包まれているのに静かだ。

 僕たち二人は静寂しじまに包まれている。





 幼い君とした約束。

 恋心と呼ぶにはまだ淡いけれど、ただお互いが世界で一番大切だった頃に。


 僕達の街で、夏休みにあがる花火を二人で見ながら僕が告白をする。

 それを君が受け入れる。


「こうこうせいになったら、そうしようね」


 言葉と指切りだけの、他愛もない約束。




 その約束の夏だ。

 僕はその約束を、今果たす。


「――僕と付き合ってくれませんか」


 花火の音に掻き消されないように、大きめの声を出す。

 心臓が100メートル走直後でもこうはならないって位に、激しく動悸している。


 気の利かない、何の変哲も無い僕の告白に、君は微笑んで応えてくれる。


「……はい。――本当に、私でいいの?」


「君がいいんだ。あの日からずっとそう想ってきた。――やっと叶ったよ」


「うれしい。――私も、やっと願いが叶いました」


 そういって僕が好きな、花火にも負けない艶やかに美しい笑顔を見せてくれる。

 あんまり笑わない僕も、無理して何とか笑顔を返す。


 君の瞳から涙がひとしずく、すいと流れる。

 僕も泣いているのかもしれない。


 幼い約束は果たされた。

 今この時から、僕と君は間違いなく「彼と彼女」だ。





 ――もう君は、いないけれど。

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