夢舞台『繋がれた手の温もり』

━━……花火が上がる。


周りに立ち並ぶ夜店。ワタアメ、リンゴアメ、焼きそば、たこ焼き、チョコバナナ。他にもたくさん。


「……待たせたな」


振り返る。(……誰? )頭とは裏腹に口許が綻び、頬が紅潮する。


「遅いわよ? 花火、始まっちゃったじゃない」


頭1つ分高い彼。隣に立ち、見上げる。今日はお祭り。お気に入りの桜文様の浴衣に、ハーフアップした髪。


「これ探してて……」


私の髪にそっと差し込んだのは……浴衣に合わせたかのような、可愛い桜の釵(かんざし)。


「え? ありがとう……」


「うん、よく似合う」


花火に照らされた彼は、少し照れたように見えた。少し長くなった黒髪に手をやっている。

……自然に私の指に指を絡める。


「祭りはまだまだやってる。見て回ろうぜ」


暫く無言で歩く。私に合わせてか、ゆっくりとした歩調で。周りの喧騒がまるでただの映像かのように聞こえなくなる。聞こえるのは……自分の鼓動だけ。


━━……あれ? ナニコレ?


頭の中で声がする。同時に違うヴィジョンが脳裏をすり抜けた。


━━……彼を……知っている?


……当たり前じゃない。彼は私の"恋人"なんだから。


━━途端に不安になる。何かがおかしいと。

音が……しない? ……?!これは……夢。でも、しっかり繋いでるのだ。周りはまるでフィルムのような空間。彼だけが鮮明で……異質だった。だけど、嫌じゃない。むしろ……"嬉しい"? 夏なのに暑くない……でも何故 "彼の手は温かい"の?


「……どうした? 」


「え? ううん、何でもない……」


気がつくと、夜店から離れた神社前。本殿ではなく、離れ。……少し肌寒いくらいの空気。二人きり……だった。

自然に手を離し、肩に手が添えられる。どこかで見たシチュエーション。……デジャヴ。

彼の顔が近づき……キス、された?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る