3.イダちゃんとおかあさん

イダちゃんのおかあさんは、「だいそつでこうむいんになったひと」、らしい。これはイダちゃんが言っていたんではなくて、おかあさん連中がよく言ってることだ。

よくは分からないけど、多分すごいバリバリ働いてるひとなんだと思う。

「おとうさんもおかあさんもいそがしいんだね。」

「まあね、おかげで料理も上手くなったよ。1人でいること多いから。」

きゃらきゃらと笑うイダちゃん。周りの女子も、えーすごーい、だの、じょしりょくたかーい、だの言って笑っている。

「そういやイダちゃんさ、おじゅけん、するんだって?」

「え、ああ…うん。」

ここら近辺には、おじゅけん、する子が割といる。クラスで4、5人くらい。それでもほとんどの子は小学校のとなりにある中学に行くから、やっぱりおじゅけんはめずらしい。

「うち、おかあさんが私立のちゅうこういっかんこう出ててさ、そっからじゃないといい大学行けないみたいな風に思ってるんだよ。」

中学でさえ雲の上の話のような小学生には、大学の話をされてもさっぱりちんぷんかんぷんだった。イダちゃんがなんかすごい話をしていることくらいしか分からなかった。

分からなかったから、すごいね、大変だね、でもイダちゃん頭いいもんね、くらいのことを、ただただくり返し言うしかできなかった。

「じゅくとか行ってるの?」

「ううん、行ってない。じゅくなんて難しくってついてけないよ。」

またきゃらきゃらと笑う。周りの子たちも一緒になって笑う。


みんな笑ってる。

ほんとに、イダちゃんの周りは笑いが絶えない。

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