僕らの異世界冒険記

千里亭希遊

第1話

 シルフは今日も神殿地下にある書庫で知識を貪っていた。

 一人でなんとかならないだろうか。

 それはある種傲慢な思いなのかもしれなかった。

 たった一人で務まろうものなら、過去の神官たちが為してきたのは一体何だというのだろう。

 少し長いため息をつくと、彼は書架に分厚い本を戻した。

 と。

 背中に悪寒が走る。

 それとほぼ同時に地面が揺れ始めた。いつも通り横揺れしか無い地震。

 シルフは運悪く二、三冊落ちてきた本の直撃を受ける。ただし本は彼にぶつかることはなかった。

 頭上にかざした手で一瞬にして光の壁を生み、難を逃れている。

 二十秒ほど揺れていただろうか。

(やはり、昔に比べて強く長くなっている)

 三年ほど前までは強くても震度三程で十秒も続いていなかった。それが今や本が落ちる程になっている。

「シルフ様! ご無事ですか!」

「レム、書庫で走らないで下さい……私は大丈夫です」

 慌てた足音を立てて駆け下りてきたレムに、シルフは苦笑しながら言った。

「しかし……そ」

 シルフの科白は続かなかった。

 二人の直近に淡い緑の光が生まれる。それは一際輝いたかと思うと、人の姿をとった。……犬のような耳と尻尾がついている少女。

「はぁい緑玉りょくぎょく、元気してた?」

 見覚えのない少女の呼びかけに、シルフもレムも心当たりがなく二人で顔を見合わせる。

「んん? まだボクのこと思い出してないんだね。しかし、なんて格好をしているんだ。いくらキミが《破天十傑はてんじゅっけつ》の風だからといって……あれ」

 少女は首を傾げ、しばらく耳を澄ませるような仕草をした。

「地球じゃ……ない?」

(この子は、あちらの子なのか?)

 シルフは目を見張った。自分が結界を強化してから、一度もあちらから飛ばされてくる人間などいなかったのに。

 結界まで弱化してきてしまっているのかと思うと、シルフは目眩がした。

「これは……少し話が聞きたいな。ボクはキミの刀だ、警戒はしないでほしい」

 言うと少女はまた光り出し、その姿を一振りの刀へと変じた。

 ──ボクの名前は嵐狼らんろう。ランって呼んでね!

 頭のなかに先ほどの少女の声が響いてくる。

 どこか懐かしいような感覚で、シルフは柄に手を伸ばした。

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