僕らの異世界冒険記・ゼロ(整理推敲予定)

千里亭希遊

れとろすぺくしょん

『……エン? 聞こえる?』


 もう幾度となく聞いてきたその遠慮がちで弱々しい声。


 自分のことを、延弘のぶひろの≪延≫をとって≪エン≫と異世界風に呼ぶ、異世界の少年。


 初めて≪彼≫の声を受け取った時は、とうとう自分の気が狂ったのかとさえ思った。


 けれど、夢の中や念話で交流を持って、段々と≪彼≫と彼のいる世界の存在を、確信するようになっていた。



『あぁ、聞いてる。それで、この前言ってたことは……』


『うん、今、請願しているところ……でも、本当にいいの?』



 彼はいつも、そう聞いた。そして彼は、いつもこう返す。



『あぁ。俺も、もう、決めたんだ』






†††◇†††






 らしくもなく過去に思いを馳せると、エンはふう、と一息ついた。伸びをする。


 質素ながらどこかお洒落にも思える窓に朝の光が差し込む。



 最近になって何故か『向こう』から迷い込む子供がたまに現れるようになっていた。そのため思い出が触発でもされているのだろう。



 さて、今日も見回りだ。


 エンはこれ以上子供たちが迷い込まないことを祈った。

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