第9話 闇の中の死闘
神楽舞は後悔していた。
もう少し公安の戦闘訓練をさぼらずにしておけば良かったとか、せめて拳銃ぐらいは秘かに携帯しとけばなあという、今更、遅いものばかりだった。
本業がデスクワークなんで、油断していたのもあった。
足音から推測すれば、襲撃者は十人あまりである。
正体は全く分からないのだが、警察が到着するまでの数分、最悪三十分ぐらいの間に、この会社の人間を皆殺しにするつもりなのは明らかだった。
今も倒れてる社員たちを見分しながら、銃器で止めを刺す音と悲鳴が断続的に聴こえる。
舞の所にも男の足音が近づいてきていた。
公安への非常通報もしているが人員も少ないし、神沢社長というか、神沢少佐もほとんど東京にいる。
そもそも、これだけの武装勢力に対抗できる人員などなかなかいない。
飛騨君はまだ一時間はかかりそうだし、でも、警備がどうとかという変な話のお蔭で命拾いもした。
おそらく、古代飛騨一族の家系なので今回の襲撃を幻視したのだろう。
頼みの綱はカオルちゃんだが、おそらく、下鴨神社付近に滞在してるはずで、会社のある京都南部とはかなり離れている。
さて、どうするか。
とりあえず、最初の銃撃で床に転がったのだが、左手を撃たれていて、何とか愛用のストールで止血は済んでいた。
武器などないのだが、とりあえず、アルミ製の定規を確保していて、実家の神楽流小太刀の免許皆伝の腕を発揮するしかない。いや、それもここ数年ぐらい稽古もしてないのだが、今更、後悔しても遅い。
ひとりの男が近づいてきて、舞に銃口を向けて引き金を引こうとした。
闇の中で音もなく立ち上がった舞は、銃口をかわしながら男を床に投げ飛ばした。
やはり、実家の神楽流柔術の技だが、そのまま男の口を塞ぎながら
そのままデスクの影に身を潜める。
まずはひとり。
だが、不審な音で三人ぐらいの男がさらに舞に近づいてきた。
一斉射撃が来るが高速移動でかわす。
幸い、逃げ足は早いのだ。
結局、大した時間稼ぎもできそうもないし、舞のデスクは出入り口の扉に近く、ここは思い切ってそこを目指して移動していく。
神楽流柔術独特の歩法で音を立てずに近づく。
敵は暗視スコープは装備してるようだが、舞も目が慣れてきていて意外と夜目も効くのでその点は問題なかった。
定規を構えて、出口の見張りに跳びかかる準備をしていたら、その男の胸から黒い棒状のものが突き出てきた。
思わず声が出そうになったがこらえる。
次の瞬間、男は音を立てて崩れ落ちた。
「お待たせ!」
当然、そんな声を出せば、襲撃者たちの一斉射撃を浴びる訳だが、声の主はそのことには無頓着だった。
「悪童丸、
声の主は公安というか、秘密結社≪
陰陽師の式神のようなものだが、可愛い黒髪の童子の姿をしているけど、物理、霊的攻撃を完璧に防御し、ほぼ不死身で、父親は吉備の地霊で鬼神の
そもそも、生きてるのか死んでるのかもはっきりしないが、人間が相手できるような存在ではない。
凄惨な光景になりそうなので、舞は目を伏せた。
ということで、後は一方的な殺戮となり、襲撃者はあっさり全滅した。
神楽舞はほっと胸をなでおろした。
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