第7話 飛騨亜礼の短すぎる休暇

「また、舞さんか! 今度のメールはどんな要件なんだろう?」


 飛騨亜礼は故郷の飛騨に久しぶりに帰郷してのんびりとした日々を過ごすつもりであったが、神楽舞からトラブル相談のメールが相次いでいた。

 実家のソファに寝ころびながら、タブレットパソコンで観ていた動画画面を閉じてメールに目を通す。

 

「ずいぶん、メールが溜まってるな。えーと、ユーザーグループの組織票の問題………それは別にいいんじゃないかな。ランキング上位に行ったり、書籍化レベルにいくにはそれなりの作品の面白さもないといけないので、作品に力があれば上位に行くだろうし、そんなに小説書くっていうのは甘くないと思うけどね」


 テーブルの上のコップに入ったコーヒー牛乳に手を伸ばしながら独り言をつぶやく。

 次のメールを見る。


「ユーザーが小説をスマホ小説サイトに投稿したら、勝手に電子書籍化されてアマゾンで売られた? いや、それは『作家でたまごごはん』とは違うサイトの話だろ? とりあえず、適当に返信してくれていいよ」


 しかし、ユーザーからみれば大変なんだろうけど、正直、対応の困るトラブルメールばかりである。

 のんびり田舎で過ごすつもりが、これでは会社にいるのと変わりない状況になってるような気がしてきた。

 気分転換にドライブでもしますか。


 飛騨は家を出ると、幼い頃、よく行った大丹生池に向かった。

 岐阜県高山市丹生川村にある大丹生池は、大蛇が棲んでいたという伝説も残る乗鞍岳の溶岩でできた堰止湖である。


 かつてはそこで雨乞いの儀式も行われていたというが、飛騨は両親や村の住人と一緒に池に映った太陽を眺めるという『日抱ひだきの御魂鎮みたましずめ』という行事の記憶を思い出していた。


 湖面に映る太陽の光をみつめて、しばらくしてから目を閉じると瞼の裏に様々な映像が浮かんだ。

 それは遠い過去のものだったり、未来の映像だったりした。


 その頃はそれが当たり前だったので疑問にも思わなかったが、それは村人たちにある奇妙な能力を授けるトレーニングだったのかもしれない。


 その日は天気も良く太陽は中天にあり、大丹生岳の山々の緑も美しい。

 大丹生池に着いた飛騨は、その頃のように太陽でキラキラと光る湖面をぼんやりと見つめてから目を閉じた。


 そうしていると、脳裏にイメージが浮かんだ。


 最初に『作家でたまごごはん』のサーバーがダウンする光景が見えた。

 会社に銃器で武装した数人の男たちが踏み込んでいく様子が続く。

 そして、舞が何者かに撃たれて倒れる姿………。


 飛騨は目を開けると足早に車に向かった。


「一週間かあ。ちょっと早いが京都に帰るか」 


 自宅に帰ると両親に別れを告げる。 

 一ヶ月の予定だった飛騨の休暇はこうして終わることになった。



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