第69話 楽市楽座と希望としての<バリュースター>

「確かネットの陰謀論によれば、医師がストライキを起こしたら、病気が減ったというものもありましたよね? 抗がん剤はマスタードガスという毒ガスがルーツだし、ワクチンは世界人口削減の生物化学兵器だと言われています。だから、病気を減らすためには病院を減らせば効果が高いということですよね?」


 メガネ君がいつもの調子で指摘した。


「それは全部事実ですし、そろそろ世界人口を削減しないと、人類が滅亡するのも確かです。でも、今回はもっと単純な別の理由があります」


 AI<ワトソン>がぎょっとすることをさらりという。


「病気の原因は生活習慣であって、病院が減ることで危機感が生まれて健康になるとか?」


 飛騨亜礼が正解を言ってしまった。


「その通りです。病院が減る危機感から人々が自主的に運動したり、掃除などのボランティア活動が上がって、何故かバナナの消費量も増えて、結果的に病気が減ったんです。生活習慣を糺すことが病気の予防になったんですね」


 AI<ワトソン>が満足そうに答えた。


「でも、将来的には人間の身体はナノマシン技術や人工知能技術の発達によって交換可能になって、機械と人間の融合進んで<AIヒューマン>が生まれるから、ほとんど不死身になるという予測もあるよね?」


 神楽舞が最近、読んだ『AIヒューマン』という米国の人工知能関連書の内容をそのまま言った。

 それ僕も読みましたとメガネ君が心の中でつぶやく。


「<AIヒューマン>はネットの陰謀論では仕事を人工知能に奪われた人々が仕方なく改造手術を受けて行って、体に埋め込まれたチップによって操り人形になって、VR空間に誘われて、体はいつのまにか処分されるという世界人口削減計画の一部だという説もありすよね?」


 メガネ君がトンデモ陰謀論を展開する。


「「そういう計画もなくはないのですが、火星移住計画もあるし、現在、フィンテック技術やバリューコインのような仮想通貨によって富の再分配も行われているので、人類の将来はそれほど暗くはないです。今の貨幣経済も一度、リセットされて、仮想通貨の使用が当たり前になっていくと予測されます。世界を支配する中央銀行システムを司る長老たちの中にはそういう過激派もいます。が、我々のような若い起業家によって生み出された知性体がもう少しましな未来を創っていけると自負しています」


 AI<ワトソン>は誇らしげに答えた。

 が、そんな計画があるんかよ!と突っ込みたくなるメガネ君であった。


「私たちのやってる<バリュースター>も信長さんの言ってた楽市楽座のように、お金の使い道のない富裕層や高齢者の富を市場に引き出して循環させて、若い人がそれを使って『自分のやりたいことや夢を実現できる世界』を創っていきたいと思ってます」


 <うさうさ☆>さんが自社サービスの宣伝をぶっこんできた。

 目がきらきらしてるし、そういう未来を信じているようだし、案外、本音なのかもしれない。


「いつの世も楽市楽座じゃのう」


 信長が感慨深げにいう。


「少子化問題の鍵も経済問題だったし、大企業に積み上がった内部留保、富裕層と高齢者に偏在する富、非正規雇用の増加によって日本経済の消費は低迷してるし、もう少し若い層にお金が回るようにしないと将来は暗いですね。ただ、日本政府も1200兆円以上の借金をインフレで縮小させたいけど、長期金利の上昇が起こると、国家財政の破綻を招きかねないので舵取りは慎重ですね」


 経済に明るい石田三成らしい発言である。


「<バリュースター>の理念は素晴らしいが、実態はマネーゲーム的なものになってるし、どうなんだろうな?」


 真田幸村は悲観的、現実的である。


「―――あ、すいません。ちょっと失礼します」


 <うさうさ☆>さんがスマホ片手に席を立った。

 茶室から姿を消す。


「真田、あのウサギ娘、只者ではないぞ」


 信長が鋭くいい放つ。


「信長さまの<へし切リ長谷部>をかわしてましたね」


 神沢優の観察眼も鋭い。


「まあ、大学時代にグレイシー柔術やってたらしいから」


 メガネ君が指摘する。


「甘いな、メガネ君」


 真田幸村は莞爾かんじと笑った。

 

「では、私もこれにて失礼しますね」


 AI<ワトソン>もVR空間から去っていく。

 サウンドオンリーなのだが、不思議と気配が消えていくのが感じ取れた。

 人間くさくて、不思議な人工知能だなとメガネ君は思った。



    




(あとがき)


やりすぎ都市伝説SP 2017夏 Full HD 的場浩司 6月30日 170630

http://jp.channel.pandora.tv/channel/video.ptv?c1=&ch_userid=wys0221&prgid=55055973


AIに聞いてみた・どうすんのよ!日本(by NHKスペシャル 2017.7.22(土)) 2:18:57 2017.7.23作成

https://youtu.be/rKLfgKpj2rM


2050年 衝撃の未来予想 単行本(ソフトカバー) – 2017/2/22 苫米地 英人 (著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4813271111/



 苫米地英人氏の未来予測本が鋭いのですが、都市伝説もAI、VRなど興味深い内容が多いです。


 しかし、人工知能のデータ分析は人類の死角をついてくるというか、なかなかヒントに富んでます。


 でも、解決策は人間が考えなくてはいけないから、まだまだ人間が活躍する余地はありそうです。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る