第57話 パレオの無限増殖と妖狐
そこは新小説投稿サイト<ヨムカク>の京都事務所である。
アリサは金曜の夜から運営の萌の様子がおかしいことに気づいていた。
最初は『パレオ』というホワイトクッキーにほろ苦いブラックビタークリームを挟んだお菓子をやたらに食べるようになったという些細なことだった。
「パレオなんて食べてやる。パレオなんて食べてやる」
と呪文のようにつぶやきはじめた。
彼女が運営してる新小説投稿サイト『ヨムカク』では『パレオ』という三文字小説がSFランキングの一位に君臨し、ランキングシステムの欠陥がその作品の存在により指摘されていた。
苦悩した萌は『パレオ』をランキング除外する決断を下した。
だが、それは更なる地獄のはじまりになり、『パレオ』が増殖して『パレオ』小説がランキングに溢れた。
『パレオ・ロス・コンプレックス』と言えばいいような現象が起こり、一話完結型のナンセンスな小説もランキングを席巻していった。
それは10万字の小説を準備して『ヨムカク』に投稿していた作者たちが、ランキングシステムの欠陥で順位を上げづらく、作品を読まれたり、評価されたりしずらいデスゲーム的状況下において、その無意識が産み出した亡霊、あるいは怨念のようなものが現実化したものだった。
『パレオ』は『ヨムカク』の作者たちの無意識を反映することによって大きくなっていって、無限増殖を繰り返し、ランキングを覆い尽くすかに思えた。
それが萌に更なるストレスを与えたのか、土曜日に入るとやたらに『きつねそば』ばかり食べるようになっていった。
日曜日の朝に至っては、油揚げをおやつ代わりにパクつくようになった。
完全な『
『狐憑き』は精神錯乱であり、西洋においては『
地域、時代、文化によって憑くものは変わるのだが、古代の医術であるシャーマン文化との関連性が指摘されている。
『狐憑き』は西洋医学的には精神病に分類されるのだが、日本では修験道などの祈祷師が『狐を落とす』という演劇行為、一種の催眠暗示によって精神病を治療するという呪術テクノロジーが発達した。
西洋の
まさに周囲と自分自身にその世界観を真実だと思い込ませて行われる、命がけの演劇行為と言えなくもない。
日本において狐といえば、お稲荷さんなどの神の御使いとして人気があり、京都では伏見稲荷が有名であり、パワースポットとして参拝者も多い。
しかし、狐を祓うとなると、修験道の
が、彼はアリサの従兄弟であり、元内閣総理大臣である
アラハバキ神、別名、アラハバキカムイとは
現代風に言えば<ニーハイソックス>神とも言えなくもない。
彼の一族の
となると、ふつための心当たりは
彼女はネット小説投稿サイト『作家でたまごごはん』の入居してるビルにある公安警察のセーフハウス、秘密結社<
陰陽師、正確には道術士なのだが、狐憑きを落とすぐらい造作もないと思われるが、とりあえずメールしておく。そこまで思案してから、アリサは萌に話を切り出した。
「萌さん、ちょっと根を詰めすぎだと思います。ここは他のスタッフに任せて、少し息抜きしてみたらと思いますが」
切れ長の目がすっかり狐じみてきた萌の表情は少しきつめだったが、まだ、少しは正気が残ってるように思えた。
「そうねえ。実は午後から<KAWAKAMI>のネットゲー<刀剣ロボットバトルパラダイス>の制作会社<ITM.COM>の竜ヶ峰雪之丞社長が京都見物にくるのよ。ちょっと清水寺辺りを案内しないといけないので、アリサちゃんも来てくれない? <KAWAKAMI>の角山卓三社長、クリエーターズSNS『sketch』のS社長さんも合流して、夕方から会合もあるのよ」
アリサは女子大生なのでアルバイト待遇であったが、仕事はバリバリで、案外、萌から信頼されていた。
「大丈夫ですよ。お供しますよ」
アリサはにっこりと微笑んだ。
アリサは知る由もないが、信長一行も清水寺に向かうというし、このままではメガネ君が妄想したダンスバトルが実現するかもしれない。
鬼がでるか、蛇がであるか、あるいは狐か、竜かは定かではないが、次回、緊迫の接近遭遇とダンスバトルをご期待ください。
しかし、京都観光コースって何かと清水寺辺りが起点や終点になるので、仕方ないっちゃ、仕方ない展開ではあるわな。
あ、ひとりごとです。
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