第56話 AI読者と<ヨムカク>春のBAN祭り

「飛騨君、<ヨムカク>も<春のBAN祭り>が展開されてるみたいよ。ランキングの欠陥を突いてる運営が不適切だと考える作品がどんどん削除されてるみたいよ。なんだか懐かしいわね」


 <作家でたまごごはん>運営統括チーフである神楽舞はちょっと昔のことを思い出してるようだ。

 そこは小説投稿サイト<作家でたまごごはん>の本社である。

 本来、土日は休みなのだが、土曜日に続き、日曜日の朝も何故か仕事をしている。


「確かに、舞さんと一緒にやりましたね。懐かしい。でも、<作家でたまごごはん>では、毎年、恒例の<春のBAN祭り>やらないんですか?」


 <複垢調査官>飛騨亜礼としては、今は新小説投稿サイト<ヨムカク>に出向してるとはいえ、気になるところだ。


「<複垢狩りゲーム>を導入してるので、サイトのユーザーが勝手に複垢を狩ってくれるのよ。怪しいアカウントは<複垢ランキング>というのがあってピックアップされて、複垢を狩るたびにポイントが溜まっていき、賞金稼ぎができるシステムなの。ファンタジーRPGなどゲーム会社と提携してゲーム内通貨と交換できるようになってるのよ。今では大手コンビニチェーンのSポイント、DVD、CDレンタル書店のDポイントにも交換出来るので、結構、好評よ」


「ほんと? そんな悪魔的システムを誰が考えたの?」


「俺です。プログラムはもちろん、チャラ夫くんですがね」


 メガネ君は人差し指でメガネをクイッと持ち上げて、自分の知性をアピールする。いや、大したアイデアではないだろう。


「時代は人工知能<AI>なんだね。<複垢調査官>の仕事もなくなって、僕もそろそろ廃業かね」


 結構、へんこんでる飛騨亜礼だった。


「<作家でたまごごはん>では、さらに<AI読者>のコメント、評価レビューシステムも導入する予定です」


 メガネ君は畳み掛けるように言った。

 そのシステムをリリースするために、土日出勤になっていたのだ。


「え? それ微妙じゃないか?」


 飛騨もさすがに顔をしかめる。


「でも、大手SCチェーンの<エオン>なんかでもレジは自動化されて、AIロボットの<タッパー君>がPOSレジ打ってくれて自動精算する時代ですからね。<AI読者>に人格を持たせればいいと思うのですよ。このエリィちゃんなんか、<作家でたまごごはん>のスタッフにも好評です」


 メガネ君はPCモニターを指さした。

 そこには金髪のかわいらしい少女が映っていた。

 6歳ぐらいだろうか。

 妖精のような容姿の少女が微笑していた。


「確かに、これはありかもしれないな。うーん、人気AI読者ランキングとか作ったら?」


「飛騨さん、それはすでにあります。実装予定ですよ」


「そりゃそうか。話は変わるけど、<ヨムカク>のランキングシステムだけど、直近7日の週間ランキングだと、ランキングが変動しやすいというメリットはあるけど、短編連作的な作品有利、長編、完結済み作品が不利になってるよね。SFジャンルの完結済みの『戦国三国志』が5位に沈んでいて、短編連作的な作品がランキングを上がってきている。このままだと完結作品はどんどんランキングが下がっていくのではないかな? <作家でたまごごはん>のように、完結済み作品、累計ランキングも作った方よくないか?」


「確かに、今のランキングシステムのメリットを生かしてそれを補完するなら、そういうランキングシステムも作った方がいいわね。このままだと、せっかく発掘したTwitter小説『戦国三国志』は完結済みなので、このままだとランキングがずるずる落ちていく可能性があるわ」


 神楽舞はちょっと渋い表情だ。


「<ヨムカク>は自分のところの将来有望な看板商品を潰すつもりかな?」


 飛騨は懸念を表明した。


「結果的にそうなってしまうかも知れませんね。<作家でたまごごはん>のように累計、完結済み、短編などランキングシステムを多面的に展開すれば、かなりそれも防止、緩和できるかもしれませんね」


 メガネ君も<ヨムカク>の将来に不安を感じてるようだった。


「ランキングシステムの複数化かあ。案外、それが解決策かもしれないなあ」


 飛騨は腕組みをして考え込んだ。


「飛騨さん、実は僕が書いてる『複垢調査官 飛騨亜礼』(作者:メガネ君)のアイデアが浮かんだんで聞いてもらえますか?」


 メガネ君がいつになく真剣な表情で言った。


「<ヨムカク>を運営してる大手出版社『KAWAKAMI』と<刀剣ロボットバトルパラダイス>を運営してるITM.COMが手を組んで、クリエーターズSNS『sketch』を買収するとか業務提携するんですよ。それで企業連合ができるんですよ。そこと<作家でたまごごはん>とネット出版社<メガロポリス>連合が<刀剣ロボパラ>で戦うという構想です」


「<刀剣ロボパラ>でなんで戦うのよ?」


 神楽舞が疑問を呈した。


「何となく。第三章からの流れかな。まだ、流れは分からないし、大体の構想です」


「それで?」


 飛騨が続きを促した。


「ビジュアルイメージも浮かんだんですが、京都の清水寺から八坂神社に下っていく坂があるじゃないですか。あの土産物とかのお店がいっぱいあるところです。僕と飛騨さん、武将姿の信長さまとお姫様姿の織田めぐみちゃんが歩いてると、花魁おいらん姿のITM.COMの竜ケ峰雪之丞りゅうがみねゆきのじょう社長、<ヨムカク>のお姫様姿の神無月萌さん、画家姿のクリエーターズSNS『sketch』のS社長さん、H社の社長JK氏が黒の背広にサングラス姿、超大手出版社の<KAWAKAMI>社長の角山卓三社長が<竹馬のようなシークレットブーツ姿>で現れるんです」


「ちょっと、待った! メガネ君、今、看過できない問題発言があったが、<竹馬のようなシークレットブーツ姿>って何?」


 飛騨は嫌な予感がしたが敢えて尋ねてみることにした。

 神楽舞は能面のように顔面蒼白である。


「クリエーターズSNS『sketch』の母体であるネット有料コラムサイト『デザート』で超大手出版社の<KAWAKAMI>社長の角山卓三社長のコラム読んでたんですよ。そしたら、この人、何となく若いというか、子供っぽいイメージかなと思って、ということは背が低い→シークレットブーツ→<竹馬のようなシークレットブーツ姿>というイメージが浮かんだんです」


「まあ、浮かんだものは仕方ないわね」


 神楽舞は抑揚のない言葉でコメントした。

 一応、フォローしてるつもりのようだ。


「それで?」


 飛騨はもはや止められないと思いつつ先をうながした。


「画家姿のクリエーターズSNS『sketch』のS社長さんが突然、歌いだすんです。JKを称える歌を」


「やっぱり、その流れ」


 神楽舞はH社の社長JK氏に招かれた、とある京都の高級料亭での出来事を思い出していた。 


「――――そして、JKが、Wooooooo! <PERFECT RIEMANN>! といっていつもの首をかしげるような仕草をするわけです。それを合図に萌さん、雪之丞社長も踊りだす! それを信長さまが見過ごす訳がない。扇子を出してひとさし舞うでしょう。一気にダンス対決です!」


「いや、それ、何の意味があるの?」


 神楽舞はもう何がなんだか分からないという表情だ。


「何か浮かんじゃったんですよ」


 メガネ君が目をキラキラさせている。


「浮かんだものは仕方ない」


 飛騨亜礼もあきれながらも、そのとんでもない発想にちょっと感心してる。


「メガネ、いい考えじゃな。では、わしの散歩のお供をしてもらおうか」


 メガネが振り帰ると、そこには武将姿の織田信長とお姫さま姿のめぐみちゃんがいた。

 謎の<境界性次元変換機械生命体マージナル・ボディ>のお陰で神霊としての信長は変幻自在にその姿を変えることができ、その力を織田めぐみにまで及ぼすことができるようだった。


「飛騨、おぬしも来い。少し話したいことがある」

 

 信長が腰に差してる『へし切長谷部』が一瞬で抜かれて、飛騨の首を両断するイメージが浮かんだ。

 信長には静かながら有無をいわさぬ迫力があった。

 

「はい、では、舞さん、信長さまのお供をして、清水寺でもお参りしてくるよ」


 飛騨はそういって立ち上がる。


「清水寺かあ。まあ、あそこなら大丈夫ね。では、いってらっしゃい」 


 信長一行を見送りながら、神楽舞は少し残念だった。

 古代の白拍子しらびょうしの血筋を引く舞姫の素質がある者として、ダンス対決は見逃せないなあと思った。


 やっぱり、愛用の桜色のストールを首に巻いて、桜がちらほら舞ってる中を信長一行を追う神楽舞であった。


 


 

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