第50話 いろいろとストーカーな人々

 そこは<作家でたまごごはん>の会議室である。


 神楽舞の正面で、細面の顔にどじょうひげ、洋風の黒マントに漆黒の鎧を着た戦国武将が緑茶をすすっていた。

 無論、織田信長である。


 その右隣には人を何人か殺していそうなカラスのような男、飛礼同盟の副隊長ザクロ、純白のワンピースに金髪碧眼のオランダ人美少女のハネケ、身体の所々が義体化された黒いジャージの上下、黒髪の日本人の夜桜が並んでいた。

 

 神楽舞の手前にはメガネ君こと服部新三郎がいたのだが、めんどくさいので、やっぱり、メガネというあだ名で呼ぶ。


「<刀剣ロボットバトルパラダイス>やってたら、火星ステージに飛ばされて、龍頭のボトムウォーリアーに襲われて、憑依されてた織田信長さんが助けてくれた、まとめるとそんな感じですね?」


 神楽舞は事務的に言った。


「で、この人たちは?」


 事情は何となく分かっているが、メガネに聞かずにおれなかった。

 

「俺は飛礼同盟の副隊長ですから、メガネ隊長の機体のマーカーに反応して、後を追ったんですよ」


 ザクロが聞かれもしないのに答えた。


「あたしもメガネ隊長の機体マーカーを見たんで、ちょっと話でもしようかなと思って」


 ハネケが続く。


「僕はハネケさんの機体マーカーを見たんで、後をつけてみたんですね」


 夜桜の発言だけはニュアンスが微妙なので、ちょっと全員の視線を集めたが、ほぼ言ってることは同じである。


「まあ、いいわ。みんなゲーム仲間なんだから。仲良しでいいわね」


 神楽舞は冷静沈着に対応している。


「で、あの信長さまはどうすればいいの?」


 神楽舞は一番の懸念材料に言及してみた。


「大変、言いにくいのですが、しばらく預かってもらえないでしょうか?」


 メガネはおそるおそる言い出してみた。


「は? 何か、言ったかなあ、メガネ君?」 


 舞はとぼけようとしたが、絶妙ばタイミングで信長が助け舟をだした。


「清明殿から、京都での舞殿の活躍を聞き及んでいるので、わしも話がしたいのじゃが」


 流石の神楽舞でも、第六天魔王といいますか、戦国の覇王の申し出は断りづらい。

 

「―――はい。ですが、私ひとりでは心許ないので適任者を呼んでもよろしいでしょうか?」


 意外というか、当然の提案だった。


「誰じゃ?」


 信長はいぶかしんだ。


「織田めぐみ。信長様の子孫に当る者と思います。素敵なお茶でおもてなしできると思います」


 神楽舞はさらりと言った。




     †




「ザクロ、ハネケ、夜桜、ありがとう。お陰で助かったよ」


 メガネが安堵のため息をついた。

 そこは、<サンライスカフェ>京都伏見桃山店である。 

 一般的には「めろんぱん」と呼ばれている食べ物が、西日本の神戸~岡山~広島地域では「サンライス」と呼ばれている。

 ひたすら「サンライス」ばかりを、つまり、めろんぱん地獄に浸れるカフェチェーンで岡山が発祥である。最近の京都でもごく一部で人気だという。


「信長さまを、舞さん、めぐみちゃんに押し付けましたからね。ちょっと肩の荷が下りましたか?」


 ザクロがメガネの本心を言い当てた。

 眼光が鋭すぎる。


「ちょっと、気の毒だけど仕方ないわよね」


 ハネケは他人事ひとごとだと思ってるので、のんきなものである。

 

「でも、ちょっと、織田信長の話は訊いてみたかったです」


 夜桜ひとりだけ、信長と過ごしたことがないので夢見がちな発言をしている。

 俺にもそんな時代があったよなとメガネは懐かしくなった。


「意外とそばにいると疲れるよ。夜桜」


「どの辺りが?」


 黒髪の好青年然とした夜桜が身を乗り出してきた。

 カルピスを啜ってるのが妙に似合う。

 

「やっぱり、アレがねえ」


 ハネケが透き通るような碧色の双眸をキラキラさせはじめた。

 金髪とあいまって妖精然とした存在感があった。

 夜桜は惚れ直した。


「駄洒落というか、ギャグがねえ」


 ザクロも珍しく何か言いたそうだった。


「きっつーな感じなんだよ」


 メガネは本当にきつそうな顔をした。

 好物のダブルチョコサンライスをパクついている。

 そのせいか、口の周りに髭のようにチョコがついている。

 田舎の百姓のようにも見えた。

 相当なストレスがかかってたことが想像できた。


「織田信長が24時間憑依してる状態って想像つく?」


 とメガネ。


「つかない」


 ザクロ。


「想像したくない」


 ハネケ。


「きっつーーーー」 


 夜桜。ノリがいい。 


「なかなかいいギャグじゃな」


 信長。


「きっつー」


 メガネ。


 とても背中が重い。



 





(あとがき)

 

 この話、幕間話ということで、これで終わりでいいかと思います。

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