独り舞台の幕を下ろす ~殺人鬼たちのおままごと~

西織

第1話 序章

 序章


 何者かになりたかった。

 わたし自身ではなく、何者かになりたかった。自分が何か特別な存在で、称賛を浴びるべき人間であるということに、夢を見ていた。

 現実のわたしは、そんな特別な存在ではないことは分かっている。何者でもない。ただのわたし。ただの人間。ただの女子高生。ただの女。ただの子供。

 ただの、存在。

 変わりたいなんてことは思わない。ただ、わたしは今のままで、何か重大なことに関われるような、そんなことを夢想していた。誰だって、経験があることだろう? 考えたことがないなんて、言わせない。選民思想は誰だって抱くはずだ。抱かない人間は、どこか大事な機能が壊れていると思う。

 わたしは何者かになりたい。

 努力もなく、研鑽もせず、何らかの外的要因によって、主人公に成りたかった。

 主人公になった後なら、どんな努力だってしよう。苦しみだって味わってやるし、歯だって食いしばってやる。だから誰か、わたしを主人公にしてほしい。

 そんな、我儘な希望。

 そんな、都合のいい夢。

 わたしのこの夢を誰かが否定することを、わたしは許さない。思うだけなら、自由なはずだから。わたしはこの希望を誰かに求めることはしない。ただ、思うだけだ。誰にも迷惑をかけない。子供の自意識過剰な妄想をとがめるような人間は、人間性を疑われるべきだろう。

 だから、存分にわたしは思おう。

 わたしは特別な存在になりたい。

 特別な存在でないことくらい分かっている。だから、わたしは特別な存在になりたいんだ。

 何者かになりたかった。

 これはわたしの、一世一代の物語。


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