天才設計士の恋愛事情
滝神淡
第一部
プロローグ
ある男の前に行列ができている。
その男は次々質問を受けてはてきぱきと答えていた。
「ウチの班で使っている機体【アルデバラン】でエンジントラブルが多いんだ。しかも発生したりしなかったりでどんな故障なのかも分からない。君だったら何か分かるんじゃないかな?何か分かったら教えてほしいんだけど……」
「それは二世代前の機体【プロキオン】の抱えていたエンジントラブルと同じ可能性が高い。そのエンジンとサイズが同一の改良型が出ているから、そっちを使うと良い」
「ねえこの設計書じゃ開発できないって言われたんだけどー。完成したハズの最新のガトリングを開発側では知らないって言ってるのよ。カタログにもこのガトリングは載ってるのにどういうこと? 何か知らない?」
「資料には記載されていないが、そのガトリングは完成予定が延期された。研究部門は知っているんだろうけど、開発側には伝わっていなかったんだろう。現行の中から選び直すと良い」
宇宙戦闘機を設計する人間で、ひときわ異彩を放つ設計士。
設計士になってわずか一年強で既に三回も最優秀機体を作り、表彰された凄腕。
しかもそれが誰かに教わったのでなく、独学。
誰よりも優秀な機体を作る。
誰よりも精確な設計をする。
誰よりも全ての機体に精通している。
過去携わった全ての仕事を記憶している。
超論理的で隙が無い。
そんな天才設計士。
それが
「パイロットから操縦がしにくくなったって言われてさぁ、縦の動きがおかしいって言われてるんだよねー。電志、いつもみたいにぱぱっと解決してちょー」
「姿勢制御ソフトが最新だと縦の旋回が格段に鋭敏になっている。先月その説明があっただろう? 感度が調節できるから、慣れるまでは感度を鈍く設定すると良い」
「新しい機体を設計してるんですけど、部長に見てもらったらやり直せって言われてしまって……どこがおかしいか教えてもらえなかったんで電志さんに訊きにきちゃったんですけど、何かアドバイスもらえたらなぁと思いまして、ハハ……」
「翼内部の空間がこれでは不足している。それから機体の横幅が長過ぎて発艦設備に進入できない。こんなことは基本中の基本だろう? 問題外だ」
多彩な内容の質問なのになんなく捌いていく。
まさに天才。
ただ、その代わりといっては何だが、彼には致命的な欠陥があった。
仏頂面。
超仏頂面。
愛想など欠片も無い。
にこりともしない。
会話も端的。
しかも容赦がない。
謙虚さとも無縁。
フルネームを呼ぶ時は絶対にファーストネームを先に言ってはいけない。ファミリーネームから言わないと怒る。
食事は一週間全部同じでも文句を言わない。
くしゃみを極限まで我慢しようとしてへっ……へっ……と繰り返して気になる。
積極的に一人になろうとする。
そんなんだから、女子にモテない。
そう胸中で呟くのは電志の隣に座る
ああこいつと付き合うことなんて、この先ないだろうな、と思っていた。
顔はけっこう良い方なのに、モテる部分だけをことごとく外している。
何でよりにもよってこの班に入ってしまったんだろうと軽く後悔する。
愛佳と電志は正反対なのだ。
愛佳は感情のおもむくままに生きる。
設計もそんなものだ。
多かれ少なかれ、みんなてきとうにやっている。
そんな感覚だから、しょっちゅう電志とは衝突していた。
そして毎回、理詰めで完膚なきまでに言い負かされる。
彼についていける設計士なんて、存在しないんじゃないだろうか。
電志とは、それだけ凄い設計士だった。
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