金平糖 背の譚

旺璃

序章

 作家カサマシヰバルは困惑していた。美しかったのだ。とても人気のある傀儡子クグメとは思えない、乾涸びた風貌の男が壇上で肉を喰らっている、この世の醜悪を煮詰めたその光景が、美しかった。泣き喚き、がたがたと椅子を激しく揺らす肉の耳を躊躇なく削いで、血の滴る断面に唇を這わす、赤く濡れたその舌が、喉が、顔が、きらきらとして見えた。

「軟骨があまり得意ではないのです。人肉トルソーに限った話では御座いませんが、口に入れてこりこりと歯に当たると、私の脳髄はきっと、食べ物ではないものがうっかり入ったと思うのでしょう」

そう言うとクグメは天を向いて口を大きく開き、ぱく、と音を立てる様にして耳を丸呑みにした。それから右手に持つナイフをくるりと弄び、その切っ先で数え歌を口ずさむと、ひたりと止まったのは、カサマシの方向であった。

「さぁえらい物書きさん。如何ですか。次は何処を食べて貰いたいかしら」

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