第4話 それってあれじゃね?

城門を抜けると、真っ直ぐに城に続く朱色の石の道を進む。

宮殿の入り口にはまた兵士さんがいて、今度はロマンスグレーな背の高い人だった。いまの所、城に雇用されてるのってソコソコにイケメンばかりだな。

俺様も男に戻ったら城で働けるかもしれんね。


兵士のおじさんに案内されて、豪華というよりは無駄なく綺麗に整えられた城内を歩く。

城の中は、白い石材が蒼水晶や青金石で装飾されていて、全体的に青かった。

何つーか、冷たい感じがしつつも心が清められていく感じなんだ。

ここが大魔導師のおわす宮殿っだってのが、良く理解できる。

魔力が高められてるのが判るし、外側と内側のマナが整えられてくんだよね。

美容師さんに髪を切ってもらって、洗髪してもらった後みたいな感覚かな?

これは病みつきになりそう。お城ツアーとかしてくれればいいのにね。


キョロキョロしてるうちに、観音開きの立派な扉の前に連れていかれてて、まだ衝撃の対面の覚悟もしてないってのに、その扉がゆっくりと開かれていった。

兵士のおじさんはニコニコと部屋に入るよう促して、自分はさっさと背中を向けて扉を閉めてしまったので、俺様ひとり。

視界に、絨毯が敷かれた謁見の間と、その先でゆっくりと色を変化させていく魔法石の玉座が見える。

玉座には人影があって、その他に謁見の間には誰もいないみたいだった。

つまり、あそこに座ってるのが伝説の大魔導師、メルセラ様なのか。


「ようこそ、サキくん。」


穏やかな声に誘われて、王の元に近づいていく。

金で装飾された外套を身に纏うその人が、立ち上がる。


「あなたがメルセラ様?」


そう、俺様の前に居るのは、メルセラなはず。

「ああ、そうだよ。」


にっこりと、サワヤカで精悍な笑顔を浮かべる黒髪短髪マッチョメン。

その歯は、真っ白だった。


「えええええええええええええ…」


超絶美形の大魔導師なはずなのに、何故かエラくガタイのいいおにーさんが出てきたんですけど?美形は美形かもしればいけど、これ麗しくはねーだろ!?

盛って男神の彫像のごとくとか端正!吟遊詩人、ちゃんと仕事しろよ!


「ははは、吟遊詩人のサーガに騙されたって顔をしているね。」

マッチョメルセラ様が、可笑しそうに笑う。

始源の大魔導師のはずなのに、親しみやすい笑顔と雰囲気なものだから、つい俺様もリラックスして笑ってしまう。

「へへへ、ちょっとだけねー。」

「シュミの事も含めて、申し訳ない。あの丘は、今回の事を受けて重要監視地点に指定したから、もう今日のような事は起こさせないと約束する。

しかし、君のような学生があの呪文を発動させたとは、驚いたよ。」

レミアスのことも俺様の事も全部承知なのかと、ちょっと侮った自分に反省。


「ええと、丘のこと、ありがとうございます。

それで、呪文の影響で、俺様こんな美少女になっちゃって…」

「うん、その事でちょっと確めたい事があるんだ。」

少し真剣な表情になったメルセラ様に、嫌な予感がした。


「レミアスで女性に変化するなんて、初めての事例なんだ。君に一体何が起きたのか、魔導医に診察させたいんだけれど、構わないかな?」


「初めてってことは、男に戻る方法はわからないんですか?」

「それも含めて、医師に診せたいんだ。」

俺様が頷くと、メルセラ様が背後を向く。

「了解を得ましたよ。」

何故か敬語だよ。


そして、玉座の影から現れた人影に、俺様は目を見張った。

「よし、見せてみろ。」

柔らかで低い声は、弦楽器の音。


まるで月の光が人の形をとったようだと、思った。

冷たい青の瞳、月光を編んだような艶やかな金の髪。

長い髪を金のバレッタで後ろに纏め、黒いローブに身を包む長身の男の人。

その姿は、とにかく美形。

麗しさのなかに陰があって、何かを堪えているような眼差しをこちらに向けて、とんでもなく不機嫌そうなその表情に、とりあえず謝りたくなった。

が。


「ふん、美少女ってまだ雛じゃねえか。」

耳をほじって、俺様の頭をガシッと掴む美形。

おおおい、何なの?速攻無礼じゃね?


「ええ…美形なのに残念野郎なんですけど…」

つい溢れた本音に、美形の眉間に皺が寄る。

おお、迫力があるけど負けんからね?

じっと美形を見上げると、哀れむように男が呟いた。


「お前、死んでるぞ。」


え?ナニソレ?

「どういう事ですか?」

固まる俺様の代わりにメルセラ様が聞いてくれると、美形は頭を掴んでないほうの中指で、俺様の額に触れた。

暖かい魔力が全身を巡る感じがして、思ったよりこの人は不機嫌じゃないのが判る。何でか判るんだよねえ。


「こいつの肉体は、レミアス発動させてすぐに、邪法を昇華しきれずに崩壊してるんだよ。」

気を失った後、俺様の身にそんな事が!

「光の王の加護でこいつは再生されてるようだが、中途半端なんだ。」

中途半端って、なにさ?


精霊と人間の中間にこいつはいる、と、美形が続ける。

「今、このガキは光の王に気まぐれで人間寄りに構成されてるだけで、内部のマナは精霊に近くなってるようだ。

このままだと、精霊と同じ時間軸で生きることになる。」


精霊、万物に宿るもの。

動物以外の命有るもの、自然界に有る無数の現象の中に存在する何か。

単純に命あるものだけでなく、風や光にも精霊は宿る。

それと俺様が同じ時間を生きるって、もはやメルセラ様とおんなじレベルで長生きしちゃわないか?

「ねえ、つまり、結局、具体的にどうなるの?」

恐る恐る聞くと、美形が残念そうに眉を潜めてため息をついた。


「二千年以上胸が成長しない。」


は?

おっぱいがなんです?


「なんの話してんの?」

呆れる俺様に、大変深刻そうな表情で美形が熱弁する。

「重大な問題だろうが、お前この先三年位すればいい具合に成長して俺好みの女になりそうだっつのに、二千年以上ガキのままとかねーだろ!」


あれれ?このおにーさんおかしいぞ?


「それどーでもいいから!俺様元に戻りたいの!」

いくら美形でも早速女の子気分で生きようとかしてないしね!

「いや、それは無駄だろ、雄より雌のほうがお前は輝くと思うぞ?」


何なの話繋がらない。

困惑する俺様を助けるように、メルセラ様が間に入って美形を離してくれた。

ずっと頭を掴まれたままだったからね、ここまで!


「ええと、つまりサキくんはどうすれば元に戻れるんでしょうか?」

でも敬語なんだよねえ、何でそんなに腰が低いのメルセラ様あ!


美形が、眉間に皺を寄せつつ、もったいねーなあと愚痴りながら答える。

「三ヶ月後に、東の遺跡に光の王が降りるから、そこで直談判だな。」

「呼び出しには応じませんか?」

「無理。あいつ気まぐれだから聞かんし、東の神殿にわざわざ出向く位しないとガキ一人元に戻すとかしない。」

「成る程…」

メルセラ様がアゴをおさえて考え込む。

「東の神殿へ向かう途中には、シュミの根城らしき荒野がありますね。」

「半精霊の光の加護を受けた処女とか喉から手が出るほど欲しがるだろ。」

「一般の兵士では、何かあった時対処できませんね。」


んんん?なんかお芝居見てる感じがするのは気のせい?


「そこで、魔導医であり魔導のエキスパートの俺がいるという!」

「ああ!あなたが付いていくなら安心ですね!」


メルセラ様棒読みダヨネ?何か額に汗カイテルヨネ?

何この人たち、力関係がおかしい、こわい!


メルセラ様が、ガシッと俺様の肩を掴む。

その眼差しの必死さに、ちょっと引く。

「サキくん、君が元の姿に戻るには、三ヶ月後までに東の果てにある光の王の神殿に行って、そこに降りてくる光の王にお願いするしかないみたいなんだ。」


何かそれって成功率とか曖昧じゃないかなあ!


「申し訳ないんだけれど、君の護衛にこの人を付けるから、この人はとにかく強いから、君の安全だけは保証するよ!」


「この人この人って、結局このおにーさんは誰なんですか?」


俺様の言葉に、美形がニヤリと笑う。


黒いローブをバサアっとはためかせ、かっこいいポーズを決める。

天井から何故かスポットライトが美形を照らし出しちゃったよ!


「俺は、天才魔導医師セラム.ハーキュリーだ!」


え?せーらーなんとかまーきゅなんとか?


得意げにドヤ顔をする超絶美形のセラムさんを見て、とっても申し訳なさそうに目で謝るメルセラ様を見て、今ここに、俺様の災難が決定したのがわかった。



厄介者をおしつけられたよね!


「旅の無事を祈っているからね、本当に。」

メルセラ様が固く目を瞑ってお祈りをして、俺様の旅が始まった。


もー!

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