当たりを引けば、友だちが一人もらえます。
友だちクジ <前編>
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運がわるければ フーセンガムがひとつ 手にはいる
運がよければ あなただけの すてきなお友だちが 手にはいる
もっと もっと 運がよければ・・・?
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商品名:友だちクジ
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近所にある小さな駄菓子屋は、「友だちクジ」を売っている。
当たりが出たら「友だち」を一人もらえるクジ。
トモコは、そのクジの当たりを、なんとしてでも引き当てたかった。
トモコは、友だちがほしかった。今いる二人の友だちとは別の、新しい友だちが。だって、今いる二人の友だちは、その二人だけが「親友」で、トモコはその二人にくっ付いているだけの、「ただの友だち」だったから。
トモコたち三人組は、本当は三人組ではなくて、二人組、たす、一人ぼっち。
まったく、面白くない話だ。
三人、というこの人数が、トモコは大、大、大嫌いだった。だって、友だち同士で楽しくおしゃべりするために、二人、という人数はぜったいに必要だけれど、三人目からは、べつにいないならいないで問題ない。
げんにあの二人は、トモコがいなくたって、二人きりで仲よくおしゃべりしたり遊んだりしてしまう。いや、それどころか、トモコがいっしょにいるときでさえ、いつの間にか二人の間でだけ話が盛り上がって、トモコは一人、そのおしゃべりの中に入ることができず、二人のそばでただぽつねんと黙りこくっているしかない、なんてこともよくあるのだ。そんなふうになるたびに、トモコは二人から、「あんたなんて、べつに、いてもいなくてもいいんだからね」と言われているような思いがした。
トモコだけが、親友じゃなくて、ただの友だち。
トモコだけが、はみ出しものの、余りもの。
そのことを思い知るたびに、トモコは目に涙をためて、ぎゅっとこぶしを握って、くちびるをとがらせる。
くやしい。
それもこれも、自分があとから二人と知り合った、転校生だからだ。
三人のうちで、自分だけが「親友」になれない理由を、トモコはそう考えていた。
あの二人は、トモコがこの町に引っこしてくる前から、仲のいい友だち同士だった。二人はもとからの友だちで、トモコはそこにあとから入ってきた、新しい友だち。あとからの友だちは、もとからの友だちにはかなわない。そういうことだろう。そうに違いない。
もしも、自分のほうが先に、二人のうちのどっちかと出会っていたら。出会った順番さえ違っていたら、そしたらきっと、自分のほうが、二人のうちのどっちかと親友になっていたはずなのだ。
でも、出会った順番なんて、今さらどうしようもない。
だから、トモコはなんとしても、友だちクジの当たりを引きたかった。
自分が出会う前から「親友」になっている二人の友だちなんて、もういらない。
それよりも、クジを当てて、自分だけの友だちを手に入れるのだ。その子にとっては、自分が生まれて初めてできる友だちだから、自分とその子は、きっと本当に仲のよい「親友」になれるだろう。
それを考えると、トモコの心はわくわくと弾んだ。
+
友だちクジを引くために、今日もまた、トモコは近所の駄菓子屋にやってきた。
店の中にごちゃごちゃと並んだいろいろな駄菓子と、それを選んでいる子どもたちを横目に、トモコはまっすぐ、レジの横のクジ引きコーナーへと向かう。短い割りばしの付いたみずあめも、小袋に入ったスナックラーメンも、赤茶色のコーラグミも、水色のソーダグミも、なめていると色が変わる飴玉も、カラフルな細長い棒ゼリーも、平べったい木のスプーンが付いたヨーグルトも、透明なケースにたくさん詰め込まれたキャンディーや、甘辛いイカの足も、小銭の形をしたチョコレートも、オレンジ味やブドウ味の粉末ジュースも、ぜんぶ素通りしていく。トモコの目当ては、友だちクジただ一つだけだ。
レジの横には、いくつかのクジの箱が並んでいる。
トモコは、レジの向こうに座る店主のおばあさんに、
「友だちクジ、一回」
と、声をかけた。
「はい、はい。友だちクジは、一回百円ね」
おばあさんはそう言って、トモコの手から百円玉を受け取る。
トモコのおこづかいは一日に百円と決まっているので、友だちクジは一日一回しか引けないし、それを引いたら、その日はもうほかのお菓子も買えなくなってしまう。それでも、トモコは毎日のようにそのクジを引いていた。
だけど、友だちクジの当たりはなかなか出ない。今までに、もう何十回も引いているのに、トモコのクジはいつもハズレばっかりだ。
今日もまた、トモコはどきどきしながら、クジの箱に開いた丸い穴に手を突っ込んだ。
駄菓子屋のクジには、三角に折られた紙のクジや、ひも付きアメのクジや、いろんなクジがある。トモコの目当ての友だちクジは、ガムのクジだった。穴の開いた箱の中には、丈夫な銀紙に包まれた円ばん型のガムが、たくさん入っているのだ。
箱の中のガムの色は何色もあるけれど、この店の友だちクジの場合、当たりのガムは白色だけ。ほかの色は、赤でも、青でも、緑でも、紫でも、ぜんぶハズレだ。二等賞とか三等賞とか、そういうのはないのである。
トモコは、箱の中をガサゴソとあさって、ガムの包みをあっちへこっちへしばらくかき分けたあと、ようやく一つのガムをつかんで取り出した。
四角い銀紙の真ん中が、ガムの形にぷっくり膨らんでいる。この銀紙を破れば、中に入っているガムの色がわかる。
トモコはごくんとつばを飲んで、ギザギザになっている銀紙の端に切れ目を入れ、包みを破いた。
中から出てきたガムの色は、赤色だった。
「あら、ざんねん。赤いガムはハズレだね」
トモコの引いたガムをのぞき込んで、店主のおばあさんは言った。
トモコはがっくりと肩を落とし、大きなため息をついて、赤い円ばん型のそのガムを、ポイと口の中に放り込んだ。
+
ハズレのガムを噛みながら、トモコは家への帰り道をたどる。
友だちクジのガムは、フーセンガムだ。トモコは、口の中でやわらかくなったガムを、舌にかぶせるようにして薄く延ばし、息を吹き込んだ。ぷくーっと膨らむ、薄い桃色のフーセンガム。それをパチンとはじけさせて、空気に冷やされたガムを、またもぐもぐと口の中に入れる。
ああ。このガムが、当たりの白いガムだったらいいのに。
今噛んでいるのは、いったい何十個目のハズレガムだろうか。あの駄菓子屋の友だちクジは、本当になかなか当たらない。
いっそのこと、もっと当たりが出やすい店でクジを引こうか、とも考える。友だちクジを売っているのは、何もあの駄菓子屋だけではないのだから。
でも、あの駄菓子屋の友だちクジは、当たりが出にくいぶん、すごく賞品が良いらしいのだ。
当たりの出やすいクジは、そのぶん、賞品がろくなものじゃなかったりする。友だちクジも、下手に当たりの出やすい店でクジを引くと、ぶさいくでみっともない友だちが当たったり、いらいらするほど頭の悪い友だちが当たったり、いじわるで乱暴な友だちが当たったりすることもあるという。たとえ当たりを引くのが簡単でも、そんなクジはぜったいに引きたくない。
どうしたものかと悩みながら、トモコは、もう味のしなくなったガムをぎゅっと噛んだ。
と、そのとき。
トモコの耳に、ころりん、からりん、という音が聞こえた。
顔を上げて振り向くと、横道の坂の上から、何かが転がり落ちてくるのが目に入った。
それは、大きな金色の鈴だった。スイカほどもある大きさの鈴が、ころころりん、からからりん、と、歌うような不思議な音色を奏でながら、転がってくる。
やがて、坂を下りきったその鈴は、しばらく平らな道を転がって、道路の横にある川の手前で、水たまりのあとの窪みにはまり込んで、ようやく止まった。
トモコは、思わず鈴に駆け寄って、それをじいっと見下ろした。鈴は、先ほど奏でた音色の余韻を、まだかすかに震わせていた。
吸い寄せられるように手を伸ばし、トモコは鈴を拾い上げた。両手で抱えなければ持てないほどの大きな鈴は、ピカピカと
いったい、この鈴は、どこから転がってきたんだろう。
トモコが首をかしげたとき、坂の上から、「おーい」と男の声がした。
「やあ、やあ。鈴を拾ってくれたのかい。ありがとうよ、おじょうちゃん」
そう言いながら坂を下りてきたのは、見覚えのある顔のおじさんだった。
少し考えて、トモコは思い出した。
そうだ。この人は、鈴屋さんだ。学校帰りの道で、ときどき露店を広げて、色とりどりのきれいな鈴や、いろんな音の鳴る鈴を売っている、行商のおじさんだ。この人の売っている鈴を見るたびに、トモコはどれか一つでもほしいと思うのだけれど、クジのせいでお金がなくて、いつも見るだけで買えずにいるのだった。
「この大きな鈴は、鈴屋さんの落し物なの?」
トモコが尋ねると、鈴屋さんは、顔の汗を拭きながらうなずいた。
「ああ、そうだよ。それは、お祭で使う大事な鈴なんだ。この先の神社まで運ぼうとしていたところを、うっかり落としちまってね。さあ、こっちに返しておくれ」
にこにこと笑顔を浮かべ、鈴屋さんは、トモコに向かって手を差し出す。
しかしトモコは、鈴を両腕で隠すように抱え込み、鈴屋さんに背を向けた。
それを見た鈴屋さんは、驚いた声で言った。
「おい、おい。どうしたんだい。鈴を返してくれないつもりかい? 困るよ、おじょうちゃん。そのこがねの鈴がないと、祭が始められなくなっちまう。そいつは、ほかのものには代えられない、とっても大事な鈴なんだ」
ひどく困った様子の鈴屋さんを、ちらりと横目で見やり、トモコはほくそ笑む。
しめしめだ。これは、よい拾い物をした。
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