プロローグ~暗示する夢~

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!


シンプルなベルの音が鳴る目覚まし時計が、ちょうど目覚める時間に鳴り響く。


もがき、暴れながら俺は、顔に被った枕を剥ぎ取り投げ捨てた。


「う、なん…グェ、ゴホ!」


とっさに半身を起こして、何か言おうとして、むせてしまい思わずその場で、大きくせき込んだ。


俺は、自分の唾液が気管の中に入り込んで、危うくベッドでおぼれそうになったのだ。


しばらく悶絶し、眉根を寄せて胸元をつかんだ。


いっぱいせき込むと、ゆっくりと呼吸して何とか呼吸を整えようとした。


身体中冷や汗をかき、パジャマが貼り付いて気持ち悪い…。

額にじわりとしていた汗が目に入り染みた。

耳の奥で鼓動が早く鳴り、脈動する頭痛に伴ってひどくめまいがする。


頭を鷲掴みにして濡れた髪をくしゃくしゃにする。


とても最悪で怖い夢を見た。それは目覚めた今でも鮮明に覚えていて、いつまでも心を支配し恐怖し、離さなかった。


「何で…」「今のなんだ?」


震えながら、呟いた。


「隼人が、"神"になるなんてありえないだ、ろう…」


俺は言葉を紡いで、少しためらった…。


なぜか完全に否定できないでいたのだ。


確かに世間では、隼人は電脳世界で行方不明になり、彼がネットの中で彷徨っているうちに、いろんな知識が与える影響により、いつしか悪事に手を染め、悪に染まり、『悪魔の心を持つ者』とネットの中で恐れらているが…


そんなの都市伝説だと思っていた。


ありえない! ありえない!

通称"神"ことコード オブ ゴッドは電脳空間『デジモノファーム』の防衛システムだ。

電脳空間は、ネットワークの中に存在するためには、丸い球体の電磁膜の中に電脳世界であるデータを組み込んでその球体の中だけで存在させる。その方が外部からの攻撃に対処できるからだ。

その膜を外敵から守っているのが、人工知能である"神"だ。

その"神"が暴走?

いや…

隼人がそれを乗っ取って、悪事に使うなんてあり得ないし…


拳を握り何度も何度も心に言い聞かせた。


それに"神"が暴走なんてしたら…


デジモノファームだけじゃなくて、ネットワークの中にあるありとあらゆる電脳空間の脅威になりかねない…

それを分かっているから、俺等、隼人と俺とでプログラムした後、しっかりと教育をして、監視をしていたんだ。


あいつが行方不明になってから、"神"の権限も不明になってしまったが…

成人までに知能が発達したし…

悪事への関心を起こさないようにその感情を消滅させるアルゴリズムを組んでいる…


予知夢じゃないことを信じよう…


ーーだけどそれは、俺らが抱いたただの傲りだとしたら…


俺は、恐怖と怯えと懸念を何とか宥めようと無理にでも、平穏無事であることを信じようとしていた。


平和で楽しい日々を過ごせることが一番いいのは、当たり前に分かっている。


だからこそ、願い、祈りのように、言い聞かせていた。


だけど、思考は裏腹にどんどん最悪なほうへとぐるぐると巡る。


――もし、隼人が”神”の権限を持っていて、いや、”神”に精神を乗っ取られてしまっていたら…


またその思いが頭を掠めたが、首を振ってそれを振り払った。


冷静になれ…俺…。


暴れる鼓動と動揺する感情を深呼吸で撫でて落ち着かせると、ようやく冷静になり始めた。


胸を押さえてようやく落ち着くと、ベッドの枕元に配置された小さな棚とスタンドライトの下に置いた、眼鏡をかけた。


ベッドに正座をすると、後ろのカーテンを開けた。


木地の厚いカーテンをかけているため、閉めていると薄暗い部屋の中。今はあの悪夢のせいで陰湿になってしまった雰囲気を明かりを入れることによって、明るいものへと変えたかった。


カーテンを開けると、雲一つない青空で晴れ渡っていた。


まぶしい綺麗な空が目覚めた最初に飛び込んできたので、思わず目を見張って見とれていたら、空に大丈夫だと胸を軽くたたかれた気がして、そこでようやく冷や汗が引いていったのだった。


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