another
@Metztli
第1話
VRゲームが発売されて早3年。全世界のゲーマーはある一つのゲームジャンルが出るのを待ち望んでいた。
それはMMO。そして、それはVRゲームを実現した会社により、叶えられた。
Arcadia、それがその会社の名前だ。
そして発売されたゲームの名前は【another】というものだった。もう一つの、新しい世界を実現させたゲームと銘打たれたこの作品は、発表当時は全員がこう思っていた。『あぁ……またか。どうせ他のVRゲームと同じように実際はそうでもないだろう』と。
しかし、徐々にこのゲームは注目されていく。
その中で、一番騒がれたのはスキル、種族、年齢、外見の選択不可、というものだった。
そう、選択不可である。一部の人は大いに期待し、一部の人は落胆した。
そして、βテストが行われた。βテスターは口を揃えてこのゲームの事をこう表した。『異世界Arcadia』と。あまりにもリアル。あまりにも自由。それはもはやゲームの枠を超えている、と。
全世界のゲーマー達は歓喜した。『そんなゲームを待っていたんだ』と。
そうして発売されたanotherは、ネットでは数秒で売り切れ。店頭販売は、予約不可、そして1週間並んだ猛者ですらぎりぎりの入手であった。
さて、そんなとてつもないレアなゲームが、クリスマスプレゼントとして置かれている、枕元に乱雑に。
……また、またですか……。
二階にある自室を飛び出し、リビングへと向かう。
「おう、起きたか黒乃ぉぉぉお!?」
とりあえずコーヒーを飲んでいた親父に蹴りをかます。よけられたか。
「おう親父ぃ!なんで受験生の俺の枕元にこんなもん置いてんだぁぁ!?」
「母さんと父さんからのクリスマスプレゼントぉぉ!?」
とりあえず殴る。また避けやがった。
「見たら分かるわんなもん!俺が身を切る思いで購入をあきらめてセンター対策してるなか、なんで勉強の邪魔になるものわたしてくるんですかぁ!?」
そう、俺は高校三年生の受験生だ。今日はクリスマス、つまり追い込み時期である。
そんななか、ゲーマーの俺にこんなに面白そうなゲームを渡してくるのはどうなんだろうか。どうなんだろうか!
「父さん言ってるだろ?貯金はすでに黒乃と白奈が一生遊んで暮らせるほど貯めたって」
「つまりニートになれって言いてぇのか!?」
「ザッツライト☆」
うぜぇ、なんだコイツ!?
「しかしそう思いながらも感謝している兄であったー」
「白奈うるせぇ!?そしておはよう!」
「うん、おはよう黒にぃ」
いきなり変なナレーションを入れながら登場した我が妹、白奈。うん、今日も可愛い。いや、シスコンじゃないんで。
「黒にぃはまごうこと無きシスコンだよ」
「ナチュラルに思考読むのやめようか!?いや、そんなことより親父!!まじでやめろよ誘惑に勝てないだろうが!」
「それは黒乃の心の問題だ。HAHAHAHA☆」
「……」
「黒乃!無言で肉親を殴ろうとするのはやめた方がいいと思うぞ!」
「やかましい!息子が頑張って勉強してるのを妨害する親なんぞしらん!!」
「けど黒にぃ前の模試何点だった?」
「もちろん、満点だ」
そう、満点だ。いつも通り、今までと何ら変わらない。
我が家はある一つの共通点を家族全員が持っている。それは、ある一つのことが凄まじい程に出来てしまう、という事だ。
俺が出来るのは集中、それだけ。しかし、それゆえに何でもできる。みんな、好きな歌の歌詞は長い間聞いてなくても思い出せるだろう。ゲームにしても
ひさびさにやったはずなのにコマンド覚えてるものだなぁ、と思ったことがあるだろう。あれは好きなことをやる時に集中しているからだ。俺はその集中がどんなものにでも出来る。
我が家は、そんな変わり者の集まりだ。その中で俺は一番ましなものだった。
たとえば父親。彼は、反射神経がいい。それだけである。しかし、反射神経がいい、ゆえに無敗を誇る総合格闘技の世界王者。常勝無敗、そんな風に呼ばれることもある。しかし、無敗ゆえに、差がありすぎるが故に、飽きてしまった。
たとえば妹。複数のことができる。ただ、それだけのこと。そのせいで、引きこもりになってしまったのだが。全ての音が処理できる、そんな事を考えて欲しい。全ての会話が、聞き取れ、理解することが出来てしまう。そんな状態が常に続く。だから妹は引きこもった。
たとえば母親。彼女は意識の加速ができる。これは理解できる人は少ないだろう。これは、命の危機に瀕した時、周りが良く見える、などという事などがあった人には理解できるはずだ。それが任意に出来てします。彼女だけ、違う時の流れを生きている。
そんな、普通とは違う体質を持った一家。
そして全員がこう考えているだろう『あぁ、つまらない世界だ』と。けど、だからこそ。俺は……
「なら黒にぃ、勉強しなくていいじゃん。どうせ黒にぃも、この世界に飽きてる」
白奈からの指摘に思わず過剰に反応してしまう。
あぁ、そうだ。俺はこの世界に飽きている。つまらない、誰も俺に、うちの家族には敵わない。
「図星だ。黒にぃが、大学に行きたがっているのは家族に、ちがうね。白にこの世界の楽しさを教えたいから。違う?」
違わない。なにも違わない。
「けどさ、黒にぃ。にぃもつまらないと思ってるのに白が楽しさ感じるわけない。白は、にぃを、父さんを、母さんをみて生きてきたよ」
そうだ、それが普通だ。
「白奈。黒乃はそれでも俺達とは違い、この世界に生きようとしている」
違う。そうじゃない。俺は、父さん達と違うわけじゃない!俺は……
「父さん、白は黒にぃと一緒にいたい」
「それは、俺も母さんも思っていることだ」
「黒にぃは、なんでこんな世界にこだわるの?」
「なんでって……」
「黒にぃは、怖がってるだけ。新しい世界に行くことを怖がって、怖がって、今の世界に引きこもってるだけ。今までの白と同じだね」
「ちがっ!俺は......!」
「違わない。にぃは今までの白と同じ。白はもう引きこもることを辞めるよ。にぃは、どうするの?」
「俺は......!」
「はいはい、ご飯できたからその辺にしなさい。毎朝飽きないわねぇ……」
そこで母さんが朝ごはんを作り終えリビングに現れる。そして、その瞬間にさっきまでのぴりぴりした空気が霧散した。
「父さん、判定」
「今回は……そうだなぁ。黒乃の勝ち」
「しゃおらぁ!!白!ハーゲンダッツな!抹茶で!」
「むぅ……。黒にぃの集中はせこい。白のマルチタスクじゃこの勝負不利」
「それでも俺の勝ちは勝ちですぅ!」
毎朝の日課、白との勝負だ。勝負方法はまちまちだが今回は演技勝負だった。
「母さん!俺の勝ちだ!俺はハーゲンダッツのバニラだぞ!黒乃良くやった!」
「親父!いぇーい!」
「いぇーい!」
ちなみにどっちが勝つかの掛けが両親の間では行われている。
これが、我が家の日常である。
「にしても、今回の台本。母さんももう少しましなものにして上げろよ。俺達の本心出すなよー」
「けど、黒乃は朝の段階ではゲームやろうとは思わなかったでしょう?」
「あー……まぁ」
「今は?」
「え?やるけど?この世界つまんないしな」
この世界に飽きている、本音である。
そして食事を始める。朝ごはんは味噌汁に白米、あとは卵焼きだ。
実に普通である。
「にしても親父。どうやって4本もカセット用意したんだよ。初回って2万本しか発売してないだろ?」
「ん?あぁ、それは母さんに聞いてくれ」
「私がパソコン購入で3本。あとの1本は父さんの自前よ?」
「母さん。白も個人的には買おうとしてた。けどあれは無理」
「白奈、母さんの才能よ。才能」
「加速した?白もマルチタスクふる活用だったのに」
「てか父さんの反射でも買えたんじゃ?」
「俺は店に並んでたぞ!3週間ほどな!ほれニュースを見てみろ!ちょうどanotherのニュースをやっているぞ!」
『………。にしても、another。凄まじい人気ですね。店頭販売を待つ行列にインタビューを行ってきました。ご覧ください』
『すごい行列です!一番後の方に話をうかがってみましょう!すいませんテレビ〇〇のものなんですけど。何日ほど並んでいるのでしょうか!』
『僕はそんなに……。昨日からです』
『昨日ですか!それでも発売の二日前ですよね!凄まじい熱意ですねぇ!』
『そんなこと……。先頭の方のほうが』
『それでもすごい熱意ですね!ありがとうございました!にしても、先頭の方はどれほど長い間並んでいるのでしょうか。聞いみましょう!すいませんテレビ〇〇なんですが……え!?【常勝無敗】の灰夏さん!?』
『ん?テレビか!どうした?』
『あ、すいません!取り乱してしまいました!ところで最近試合が無かったのって......』
『anotherを買うためさ!』
『やはり灰夏さんほどの方でも気になるんでしょうか?ところでどれくらい並んで?』
『3週間ほどだな!』
「親父」
「なんだ?」
「試合してなかった理由言ってよかったのか!?」
「ああ、問題ないぞ」
それでいいのか王者。
「ま、そんなわけだ。父さんと母さんが頑張って手に入れたんだから楽しめよ!」
「黒乃と白奈の分は私が、手に入れたんだけどね」
「開始っていつからだっけ?」
「黒にぃ、勉強不足。キャラメイクは今日から、開始は明後日」
「キャラメイク?けど」
「ん、白もしらない。けどネットでは質問されまくったって言ってる」
「なるほど......。なら作るか!」
「黒乃、食べてからね?」
「分かってる」
さてさて、どうなるかなぁ。
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