第3話 今後の方針
入ってきた女性は一言で言うなら美少女だ。
小動物のように愛くるしい顔立ちに、腰まで伸びた空色の髪。
そして海のように深い青の双眼の、小さな女の子。
かわいい!
かわいすぎる!
しかもそんな子が、メイド服姿なのだ!
異世界、最高おおおおおおおおお!
「初めまして勇者様。私は専属のメイドをさせていただきます、マリーヌと申します。これからよろしくお願いいたします!」
「俺は、朝野 耀って言うんだ。よろしく」
とりあえず自己紹介して会釈までしてくれた。
俺は座ったままでやったけどね。
でもね、仕方ないんだ。
こんなにかわいい子と仲良くしすぎたらダメだと思うとね。
マリーヌ
そう、確かに彼女はマリーヌだ。
でも足りないんだよね、わざとだと思うけど。
あまりにかわいかったから名前が気になって、自己紹介される前に[完全鑑定]でステータス見ちゃったんだ。
★
名前 マリーヌ・ド・トゥーエル
性別 女
Lv 1
HP 12/12
MP 15/15
攻撃力 13
防御力 12
敏捷性 14
魔力 15
運 15
▼スキル
[火魔法 Lv1][水魔法 Lv1][風魔法 Lv1][作法 Lv3]
★
国王と名前がほとんど同じなんだよな。
関係ないはずがないよな。
俺らは奴隷化できなくて、現れた専属のメイドは国王とほとんど同じ名前。
これはあれだな……篭絡しかないですね。
まさにテンプレ。
メイドさんと良い感じになったら実はお姫様で、付き合うには国王の命令には絶対に従うのが条件とかかな? そしてゆくゆくはこの国の従順な犬になるという訳ですな。
残念だ。かなり残念だ。
俺は異世界まで来て何かに縛られるのは嫌なんだ。
自由に生きたいんだ。
たとえそれが、美少女と深い関係になれなくても。
なぜだろう、目からしょっぱい水が流れてくる。
「どうしました! 大丈夫でしょうか!?」
「大丈夫だよ。少し目にホコリが入っただけだから」
「お部屋はホコリっぽかったでしょうか? 今すぐ掃除いたしますね!」
「いや大丈夫だから! それよりも君が来たってことは食堂の準備が出来たってことかな?」
今にも掃除を始めそうなマリーヌを、俺はあわてて止めた。
まさか、目にホコリが入ったことを真に受けて掃除を始めようとするなんて思ってなかったよ。
「そうでした! 食堂の準備が出来ましたのでご案内いたします。それとこれを身に着けておいていただけますか?」
「何この指輪?」
マリーヌが渡してきた銀色の指輪に小さなルビーのような宝石が埋め込まれた物を見ながら聞いた。
聞かなくてもどんな効果があるのかはわかっている。危険で無いのも。
でも聞かないで能力を知ってるのは不自然になるから聞いただけだ。
やっぱり鑑定スキルは役に立つね!
「はい。そちらの指輪は
「そうなんだ。わかった」
そういって見せてくれたマリーヌの指輪は俺が持っている物と全く同じだった。
能力も見たのと同じだ。
だけどな、なぜ……指輪を左手の薬指に着けているんだ?
なぜそんなにも笑顔なんだ?
そしてなぜ俺が左手の小指に着けようとしたら、そんなにも悲しそうな表情になるんだ?
……わかったよ、薬指に着ければいいんだろ!
「では食堂に参りましょうか! 後私のことは気軽にマリーとお呼びください!」
「わかった。じゃあ、行こうか。……マリー」
「はい!」
もういいんじゃないだろうか!?
この国の犬でもいいよ別に!
マリーと仲良く出来るならいいよ全然!
いや待て、そう思わせるのが相手の狙いかもしれない。
危なかった。本当に危なかった。
これは罠だ。
危うく全てを投げ出すところだった。
ダメだこのまま二人で居ると罠にはまってしまう、早く食堂に行こう。
やっと食堂か……ここまで長かった。
だが俺は乗り切ったのだ! 罠にはまることなく!
食堂に辿り着くまでひたすらに円周率を考えてな。
間違えるたびに[メーティス]が訂正してくれたおかげで、25桁まで覚えたぜ!
案内されて食堂まで来たが、広いな。
学校の体育館ぐらいの広さは余裕であるな。
机は木でできた縦長のものが3×3で置かれている。
椅子も木でできた背もたれのあるものが無数に置いてある。
一番奥にはカウンターを挟んで厨房も見える。
すでに誰か来てるみたいだな……て、担任じゃないかあれ?
どうやら俺は二番目のようだ。
一番最後にならなかったのを喜ぶべきか、一番目じゃないことを悔しがるべきか?
担任は中央の机の左奥に座っている。
しかもその机の上にはかなりの量の料理が置かれている。
というより中央の机にしか置かれていない。
「耀様。席は中央の右奥でございます」
「席って決まってるの?」
「はい。来た順番で左右交互になります」
「なるほど。わかった」
そう言うとマリーは会釈をして、入り口の右側に行った。
左側を見ればマリーと同じ髪と目をした人がメイド服を着てこちらを品定めするような目で見ていた。
髪の色と目の色は同じなのになんだろう? この人は絶対に好きになれない気がする。
まあいいや。
とりあえず席に座ろ。
「やあ。ええと、君は……」
「朝野 耀です。担任の先生ですよね?」
「そうだ。担任の
「いえいえ、大丈夫ですよ。あ、それとこれからよろしくお願いしますね」
「うん? ああ、よろしく」
よっし成功だ!
座る前に声をかけられたのでステータスを見て、スキルを使うことにした。
スキルを発動するには対象に触れなければいけなかった。
だからなるべく自然に、会話の流れから握手に持っていった。
机は縦に長いと言っても、横幅も中々あるので担任の横まで行って握手した。
担任は少し疑問に思ったようだがすぐに握手してくれてくれた。
ちなみに担任のステータスは……
★
名前 羽田 純也
性別 男
Lv 1
HP 18/18
MP 17/17
攻撃力 17
防御力 16
敏捷性 17
魔力 19
運 18
称号
【異世界人】【勇者】
▼スキル
[火魔法 Lv1][水魔法 Lv1][風魔法 Lv1][土魔法 Lv1][光魔法 Lv1]
▼固有スキル
[勇者]
★
担任と握手した瞬間に[スキル・魔法コピー]を発動させて魔法スキルを全部コピーしてやった!
フフフフフ……これで俺も魔法が使えるぜ!
全員が揃うまで担任や来た奴とこの世界に来るまでの世間話をしていた。
ホントにどうでもいいような内容のものだった。
ただ待っているのが暇だから適当にしゃべる、そんな感じだ。
全員が揃うのに俺が来てから4~5分はかかったと思う。
それから皆簡単な自己紹介をしてやっと本題だ。
ちなみに最後の一人は、国王に対して奴隷に関する質問をした奴だ。名前は
「自己紹介が終ったところで俺から少し話があるんだがいいか?」
担任が席から立って、真剣な顔で言った。
全員が頷くのを確認すると、深呼吸をしてから話し始めた。
「俺達が元の世界に帰るには魔王達を倒さなければいけないという話は皆聞いていると思う。それを聞いてどう思ったかは人それぞれだろう」
担任はそこで一度話を区切って全員の顔を確認してから続けた。
「俺は、魔王達を倒そうと思う! 俺達には強い力がある! ならその力を大勢の人の為に使うのは当然のことじゃないだろうか? そして魔王を倒すことは大勢の人たちを助けると同時に元の世界に帰る為には必要なことだ。これは一石二鳥だ! 帰るためにはこれしかない。出来るのは俺達しか居ない。ならやらなくてどうする? これは俺達がやらなければいけないことだと思うのだが、皆はどう思うだろう?」
何言ってんだコイツ?
教師がそんなこといっていいのか?
それにそんなむちゃくちゃな説明で、そうですね、そう思いますってなると思うのか?
アホらしくなってきた。
「羽田先生、俺もそう思います!」
「私もそれしかないと思います!」
クラスメートの数人が賛成の意見を出し始めた。
それに流されるように周りの奴らも賛成しだし、クラスメート33人中、26人が賛成のようだ。
どうやらなし崩し的に魔王討伐を行うのが決定してしまったみたいだ。
は?
何考えてんだコイツ等?
今の説明のどこを聞けば賛成の意見になるんだよ?
あの説明を聞いて賛成できるのは正義の味方ぐらいだろ!?
いや、そう考えるとこの反応が普通なのかもしれないな。
自分には特別な力があって、それを頼りにしてくれる人たちが居る。
これはゲームや、アニメ・小説・映画などさまざまなものに出てくる設定の一つではある。
そしてほとんどの人が一度は憧れたことがあるものだと思う。
今俺達が置かれている状況は非常にそういったものの設定に似ている。同じと言ってもいいぐらいに。
そういったものに自身を重ねているのだろう。
俺も自身をライトノベルの主人公に重ねて浮かれてたしな。
今の説明だから賛成したのではなく、誰かが言い出してくれるのを待っていたってところかな?
何かあったときの責任は取れないから、その責任を擦り付ける相手が出てくれるのを……
そんなところに現れた担任は、リーダー気取りでいいカモに見えたんだろうな。
……多分だけど
でも深く考えずに賛成したのは間違いないだろう。
そして俺は今賛成した奴等は絶対に信用しない。
こういう奴等は仲間の命を危険にさらすだけだ。
[メーティス]、今賛成していない奴等を覚えておいてくれ。
<かしこまりました>
賛成していない奴は俺を除いて、7人だな。
おそらく今の説明に俺と同じように疑問を持った奴か、決心ができていない奴だな。
まだそういった奴の方が信頼できる。
「話はまとまったかな?」
話がまとまったところで入り口の方から声が聞こえた。
声を発したのは国王のようだ。
国王はうれしそうにこちらの机に歩いて来ている。
どうやってかは知らないが、話の内容を聞いていやがったな?
どう考えてもタイミングが良過ぎる。
「はい。今まとまったところです」
「ふむ。よかったら儂もこの席に混ぜてもらえるかな? まとまった話も聞きたいし、儂からも話したいことがあるからの」
「わかりました。いいですよ」
担任の許可と同時に国王の後ろに居た兵士の一人が、使っていない机から椅子を持ってきて俺と担任の間に置いた。
国王はその置かれた椅子に腰掛けると、担任に話を促した。
「ーーーーという訳で、俺達は魔王と戦うことで話はまとまりました」
「ほう、そうか! それはよかった」
わざとらしい。
絶対知ってただろう、国王さんよ?
「では皆食べ終わったようなので儂の方からも話をするかの。これからの訓練に関係する話なのだ」
あの後、「話が長くなるから先に食事を食べよう」と国王が言ったので目の前の食事を食べた。
見た目中華料理のような物ばかりで、鑑定してみても危険性は無かったから、異世界の初の料理はおいしく食べることができた。
国王はそう言うと兵士に合図を出し俺達に二枚の紙を渡してきた。
二枚の紙には魔法陣? と思わしきものが書かれている。
「今配ったのは精霊契約用の魔法陣と悪魔契約用の魔法陣だ。精霊とは人間の中で精霊に認められた者と亜人種が契約することができる存在。悪魔は人間の中で悪魔に認められた者と魔族が契約できる存在だ。精霊も悪魔も生物の姿をしていて、一度契約すると他の精霊や悪魔と契約することはできなくなる。そんなところかの」
亜人種……
それはケモ耳がついていたりするんですかね!
見てみたい、会ってみたい!
やはり異世界だ、いるよね!
居てくれるよね!
早く会いたいな!
「その精霊や悪魔と契約することがどう訓練と関係するんですか?」
担任の声で我に返った。
危なかった、ケモ耳子達に囲まれた世界から帰ってくることができなるところだった。
「ふむ、精霊や悪魔と契約することができた者は強い力を手に入れることができるのだ。訓練ではその力を扱えるようにする必要もあるからな」
力が強過ぎて扱うのが難しいって感じなのか。
フフフ……面白そうだな。
絶対に使いこなしてやる。
「もう一ついいですか? 人間は精霊や悪魔に認められた者が契約できるという事でしたが……両方に認められた場合と両者に認められなかった場合はどうなるのですか?」
「まず後者の両者に認められなかった場合は契約することができない。といっても儂を含めて人間の大多数は契約できないものなんだがな。今この城に契約できている者は一人しか居ないしの。そして前者じゃが……それはありえない」
「ありえないというのは?」
「精霊と悪魔は対極の存在なのだ。その為かわからんが、両者が同じ者を認めることは無いのだよ。だがもしも両者に認められれば、理論上は両者と契約することができる」
へえー、ソウナンダ
そんなことより早く契約とやらをやってみたいんだが。
契約できなかったら嫌だけど。
できれば契約できるのは精霊が良い。
精霊は良いイメージがあるけど、悪魔は悪いイメージしかないんだよな。
契約してやるから魂をよこせとか……精霊でありますように。
「はいはい! 俺も気になったんですけど、精霊とか悪魔って何か強さの基準みたいなのってあるんですか?」
田中、お前の気になっているのはわかる。
そういうものには大抵基準があるのがテンプレだもんな。
でもな、先に契約してから聞いてもいいだろ!
俺は早くできるか知りたいんだよ!
「ある。精霊も悪魔も神級・帝王級・最上級・上級・中級・下級となっておる。だが帝王級以上は別格な上に帝王級は六体、神級は一体と数が決まっている。人型の者は帝王級以上しか居ない。帝王級より下の者は動物や魔物のような姿をしておる」
「やっぱり、わかりました。俺は……」
「? ではそろそろ契約の仕方を教える」
田中が最後何か言っていたようだけどうまく聞き取れなかった。
それよりもやっと契約だ!
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