第46話 到着
森を抜けてからは早かった。
俺から見れば何の変哲もない草原だったのだが、アーシャ達には見覚えがある場所だったらしく、3時間ほど歩けば目的地の町にたどり着いた。
そして冒険者ギルドで護衛報酬である金貨3枚を受け取った。
今は【覚醒者】と戦うときに約束した追加報酬をもらうため、部屋の一室で待っている。
隣にはアーシャが座っている。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「この屋敷? がこの町で一番大きな建築物に思えたんだが、なぜ俺はその中の一室で待たされてるんだ?」
「何言ってるです? お兄さんに約束していた追加の報酬を渡すためです」
うん、確かにそうだ。
レオさんに「約束していた追加の報酬を渡すからついてきてくれ」と言われここまでついてきた。
だがな、ここに来るまでいろいろなものを見てしまった。
それにこの屋敷は確かにこの町で一番大きな建造物だった。
明らかにめんどくさい事に巻き込まれるコースに入ってしまっている。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開き、知らない男性? が入ってきた。
なぜ疑問形なのかというと、オオカミのような耳、さらにはオオカミの尻尾のようなものが生えているからだ。
その後ろからアーシャ姉とレオさんが、当然のように入ってきた。
「パパ! ただいまです!」
「おかえり、アーシャ。無事帰ってきてくれて、本当に安心したよ」
「当たり前です! アーシャはもう子供じゃないですからね」
「そうだったな」
アーシャにパパと呼ばれた男性は、少し笑いながらそう答えた。
だが俺の方を見ると、真剣な表情に一瞬で変わっていた。
「君がこの町まで3人を護衛してくれた、ヨウ君かな?」
「はい、そうですが?」
「そうかそうか。3人を無事にここまで送り届けてくれてありがとう。レオからある程度の話は聞いたよ。今はこの程度しか渡せないが、どうか受け取ってほしい」
そう言って男性は、金貨を2枚渡してきた。
俺はそれを受け取って、ステータスのバンクにしまっておく。
「……それにしても君は、僕が怖くないのかい?」
「怖い? 特に怖くはないですが、それがどうかしたんですか?」
「いやね、普通の人は僕みたいな存在を怖がるんだよ」
「それは多分、今この部屋にいる人達全員で襲われたとしても、無傷で切り抜ける事ができる確信を持っているからですよ」
「確かに、【覚醒者】8人を相手に勝ってしまうような人間に、私たち4人程度では手も足もでないだろうね」
男性は笑いながらそう言った。
多分この人が亜人種と呼ばれている存在なのだろう。
普通人は未知のものに対して恐怖を覚えるだろう。
だが俺は小説やアニメの影響で、恐怖よりも興味の方が勝っている。
「そんなことを聞くために態々俺に会いに来たわけじゃないでしょ? 何か話したいことがあるんじゃないですか?」
「……君は中々鋭いね」
男性はそう言って、鋭い眼差しで見つめてきた。
「君はこれから何か予定はあるかな?」
「一応考えていることはあります」
具体的には、もう少し亜人種と呼ばれる人達と会ってみたい。
それと、魔王がどんな奴なのかも見ておきたいしな。
戦うかどうかはその時にならないとわからないが、一応この世界に呼ばれた建前だからな。
「そうか……」
男性はかなり残念そうにそう言った。
どことなくレオさんも残念そうだ。
「では、その予定が終わってからまたこの町に来てくれないか?」
「それぐらいなら全然大丈夫ですよ」
特にそれ以降の予定があるわけでもないからな。
トゥーエル王国には戻る気は無いし。
というかディスペルタルと戦った時点で、戻るなんて選択肢は存在していない。
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