第43話 酔い
「そいつらを守るか」
「一応それが俺の仕事だからな」
「だが別のことに意識を割きながら、私に勝つことはができるかな?」
オルカはそう言うと、口を開けて再び耀に襲い掛かった。
耀は先ほどと同じように、右手から右側に向かって勢いよく水を噴射してかわした。
しかしながらそう何度も同じ手が通用するはずもなく……オルカは華麗にターンを決め、間をおくことなく耀を噛み千切った。
「もう少し楽しめるものだと思っていたが、私のことを甘く見たのが運の尽きだったようだな」
「……そう焦って答えを出そうとするなって」
耀はそう言うと同時に、上からオルカの右目を、[氷魔法]で作った剣で斬った。
オルカは斬られた右目から血を流し、耳鳴りのような音を発しながら暴れまわる。
「一体何をした、確かにお前は私が噛み千切ったはず」
そうだな、確かに噛み千切った。
俺の作り出した[分身]を、な。
そう、オルカが噛み千切ったのは、耀の作り出した分身だったのだ。
耀自身はオルカと喋っている間に、[完璧偽装]を使いながら直上に移動していた。
物語の勇者じゃないんだ、敵と喋ってる間に手を打っておくのは当然のことだ。
だがまだくたばってもらっちゃ困る。
今くたばられたら、何のためにアーシャ達を囮にしたのかわからなくなる。
できるだけ戦闘を長引かせなくちゃいけないんだよ。
「さて問題だ、オルカ。この中に本物は居るかな?」
耀は笑いながら上を指差す。
「なにを言って……」
オルカはそこまで言って言葉に詰まる。
なぜなら、上には無数の耀が居たからだ。
[分身]には、分身できる上限が存在する。
その上限とは……運だ。
運のステータス値の数だけしか、分身を作り出すことはできない。
では、俺の運のステータス値はいくつだっただろうか?
答えは、3,517。
本来ならそれだけの数を出せたとしても、実際に出すことができるのは精々20が限界だっただろう。
20を超えれば分身を管理できなくなり、[分身]自体を維持できなくなっていた。
だがそれを可能にしたのは他でもない、ここまで何かと役立ってきている、[メーティス]だ。
便利すぎるスキルだよ、本当に。
「これで少しは楽しめるか? オルカ」
「愚問だな」
オルカはそう言うと、上に向かって大きく口を開けた。
そして口元から、ウォータージェットと同程度の勢いで水を撃ち出した。
流石にそんな勢いで出されたら、たかが水だと言っても、命にかかわる。
と言っても、本体はオルカの隣でさっきまで話してたのだから、大丈夫と言えば大丈夫なのだ。
だが分身だからと言って、いとも簡単に全て倒されては面白くない。
耀はそう考えて、分身の1体をあるスキルを発動させながら高速で移動させた。
すると上に向かって撃ち出されたはずのオルカの攻撃が、直角に左に曲がった。
「もっと楽しもうぜ、一気になんて興がさめることせずに、1人ずつ地道な」
「……甘く見ていたのは私の方だったみたいだな」
「今更逃げ出すわけないよな?」
「逃げることができたのなら、少しは考えたかもしれんな」
「物分かりがいいのか? それともボスだからこの空間から出ることができないのか?」
耀がそんな疑問をオルカにぶつけていると、アーシャ達のいる方が少し騒がしくなったので、耀はチラッとアーシャ達の方を見た。
そして見たことを後悔した。
お兄さん今見たですよね!? 兎に角早く助けてほしいです、と言う表情をアーシャがしていた。
そう言えばアーシャが、アーシャ姉は乗り物に弱いみたいなこと言ってたな。
参ったな、一体いつからだ?
濁り具合が濃いからそんなに経ってないと思いたいが、出し続けているからなんとも言えないよな。
「すまん、オルカ。少し事情か変わった」
「どういう意味だ?」
「地道に、時間をかけて戦ってられなくなった。悪いが速攻で終わらせる」
耀はそう言うと、[分身]を全て消した。
さらに同時にこの空間に居る者を、感知系のスキルと[メーティス]を使って正確に把握する。
そして[氷魔法]であるものを作る。
それは投擲武器としては珍しい、斬ることを目的とした武器……チャクラムを。
もちろん大きさはバラバラだ。
なんたってオルカ達を両断するものなんだ、個々の大きさに合わせなければ。
できたチャクラムを耀は、一斉に飛ばす。
この時に、[風魔法]と[水魔法]を使って、回転力と速度を上げてやる。
そうすることによって、威力をさらに上げてやるのだ。
その結果、この空間に居たシャチは全滅、光となって消えていった。
もちろん、オルカと名乗ったボスもだ。
これでどうにか助かりそうだ、アーシャ達は……多分大丈夫だろう、多分。
《ダンジョンが攻略されましたので、ダンジョンの管理者権限が、攻略者に譲渡されます》
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