独女は毒女

@sumiko

第1話

31歳の時だった。

大嫌いな父が珍しく電話して来た。

『近々帰って来てくれないか、母さんと話して欲しい』


理由を聞いても

とにかく帰って来て母さんと話せば

分かるとしか言わない。。


不安で胸が支配されて行った。

仕事は順調で社内の昇格試験が迫っていた。


離婚を考えているのだろうか?


父は私が20歳の時に大病を患って

おとなしくなるまでは

ほんとにひどい父親だった。

父は小さな会社を経営していて

表向きは人当たりの良い人間で通っていた。

借金こそなかったが、

ギャンブル三昧。

気に入らない事があると母に

すべて当たり散らしていた。

私が幼い頃に見た

怒鳴りながら母の首を絞めている父の顔を今でも忘れない。

父の矛先は

時に私と弟へ向けられる事もあった。

殴られる事は母より少なかったが、

毎日のように怒鳴り散らされ

私は内向的な子供に育ち

当たり前のようにいじめに遭い

頭に10円禿げが出来た。


弟は跡継ぎということもあり

母から溺愛されていた。

相思相愛、完全なるマザコンに育った。

しかし高校進学を機に

登校拒否になり、中退。

心を病んでしまい

最近ようやく社会復帰。

今は父の会社の雑用係をしている。


幸せな家族で育っていないから

幸せな家庭を築ける自信はひとつもない。

誰にも話したくない家庭環境だった。

自分の家族が嫌いだった。

早くこの環境から抜け出して

自分だけの人生を手に入れたいと

毎日毎日考えていた。


私は高校卒業後進学のため

上京した。

でもあの父を説得して家を出るのには

かなり時間が掛かった。

女は高卒でいい。

お前にかける学費はうちにはない。

散々言われた。

でも一緒に説得してくれたのは

母だった。


一刻も早くこの世界から抜け出したかった。

上京して大学に行きながら

死ぬほどバイトした。

家賃以外は自活。

社会人より遥かに労働していたと思う。


それでも全く辛くなかった。

あのぐちゃぐちゃな家族の中にいるより

百倍楽しかった。


大学では自分の好きな知識を深め

バイト先では

私を必要としてくれる人がいる。


こんなに精神が満たされる事が

あっただろうか。

リア充という言葉が1番

似合っていた時代。


普段は誰にも見せない心の闇が

じわじわと頭の中に染み出してきた。


また、あの家族に縛られるのだろうか?

心配よりも

かったるい気持ちが湧いている自分は

とても冷酷だ。。


『とにかく来週帰ろう。』

31歳の春の出来事だった。

毒女の始まり。





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