希望の優しき者

仁志隆生

第1話「彼等の旅はここから始まった」


 この世界はある時、突如現れた黒い霧によって覆われた。


 その影響なのか、それまでおとなしかった怪物や魔物が凶暴化し、あちこちで暴れだすようになり、人々はそれに怯えながら暮らしていた。


 

 ここはとある国の深い森の中。

 そこで一人の子供が魔物に追いかけられていたが、通りかかった武者風の青年が魔物を倒した。


「君、大丈夫?」

 青年が声をかけた。

「う、うん」

 フリフリの可愛らしいドレスを着た可愛らしい子供が頷いた。

「君一人?」

「うん」

 子供がまた頷く。

「お父さんやお母さんは?」

 青年が尋ねるが

「いない、お家にはお姉ちゃんと二人だけ」

「そうか。なあ、お家はどこだい?」

「わかんない」

 子供は首を横に振る。

「そうか、迷子か。よし、とりあえず森から出よう。立てる?」

「うん」


 青年は子供と手をつないで歩き出した。

「俺はガイストっていうんだ。君の名前は?」

「セリス」


「セリスちゃんか。いい名前だね」

「うん。ありがと」


 そして二人は森を出た。

「ねえ、君のお家ってどんな感じのとこ?」

 ガイストは屈んでセリスに目線を合わせてから尋ねた。

「えとねえ、ボクのお家って山があってお花がたくさんあってね、木でできたお家」

「(それじゃわからん。それにこの子ボクっ娘か)うーん、周りに他のお家なかった?」

「ないよ」

「そうか。うーん、よし。近くの町に行ってみよう。もしかしたらセリスちゃんかお姉ちゃんの事知ってる人がいるかもしれないしね」

「うん」

(まあ、ほっとけないわな。しかし希望の勇者ってどこにいるんだ?)



 ガイストはとある国の王宮に仕える戦士で、国では一番の強者と呼ばれる程の腕であった。


 ある時、王に呼ばれたガイストは

「高名な占い師が儂に言ったのじゃ。いずれ世界を救う希望の勇者が現れると。そしてそれを守る四人の者達、そのうちの一人が」

「もしかして俺という事ですか?」

「そうじゃ。勇者はまだ完全に覚醒していないらしい、だからガイスト。勇者を見つけてそれを守ってくれ」

「はっ!」




「ってどこにいるかって占い師に聞いたら『旅先でいずれ出会う、それしかわからん』って」

「ねえガイストお兄ちゃん、何ぶつぶつ言ってるの?」

「あ、ああ、なんでもないよセリスちゃん」

「ふーん?」

「さ、町へ行こう」

「うん」



 ガイストとセリス、そして……彼等の旅はここから始まった。

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