お嬢様の初体験 Ⅱ

5 ☆☆


 今は丁度、朝の通勤通学時間の真っ最中。


 とっても混んでる駅では、人ごみに押され、行きたい場所になんて、簡単にはたどりつけなかったんだ。


 わたし、今までどこに行くにも家の車で運転手さんに送って貰っていたし。


 映画もコンサートも、鑑賞するときは、人ごみレスの特別席とか、ホール貸し切りばっかりで、こんなに一杯、人が集まる場所に来ることもない。


 だから、人ごみ初心者のわたしにとって、ちょっとのことでも、ものすご~~く大変なことだった。


「きっ……切符を買う自動販売機、ってドコ!」


 ここの駅を利用する人々のほとんどが、定期券を持っているらしい。


 駅に着くなり、みんな切符を買うことなく、直接改札口に直接入るんだもん。


 切符売り場に向かうわたしは、行き交う人の流れを邪魔してるみたい。


 どうやって人の流れを横切ったら良いのか判らずに、下手に入ると簡単に人の流れからぽーーい、と放りだされてしまう。


 だから、なかなか目の前の自動販売機へ簡単にはたどり着けず……そして、やっと、自動販売機までたどり着いても……


「きっ……君去津きさらづ駅、ってドコ!」


 今いる駅から、いくつか駅を過ぎた先で、一回電車を乗り換え、更にいくつか行った先に、これから通う高校のある君去津駅があるはずなんだけど。


 自動販売機前の壁に、ずらっと書かれた電車の路面図に『君去津』なんて駅名がなかった。


 なんで!?


 どーして、見当たんないの!?


 一応、ここから君去津までの運賃は知ってるし、乗換える駅まではかろうじて書いてある。


 だから今、すごく混んでる人ごみを避けつつ、さっさと移動し。


 一応切符を買ってちゃっちゃと電車に乗り込み、後の事は乗換え駅で聞いちゃえば良い、って判ってるんだけど……も。


 路面図に、最終目的地が書いて無いって怖いじゃない。


 きちんと書いてあるはずの乗り換え駅でさえ『ほんとにあそこで良かったんだっけ?』って心配になる。


 うぁ~~しまったな。


 電車なんて、簡単に乗れるもんだと思ってた。


 こんなことならちゃんと調べておけばよかった、と思っても、もう遅い。


 慣れないことをするんで、早めに家を出来たとはいえ、このまま、ボーっとしていたら、入学式に遅れちゃう。


 家に電話をかけたら絶対、宗一郎がここに車まわして来ちゃうだろうし。


 他に誰か、聞ける人は……そうだ、駅員さん!


 ……って、その自動販売機前から移動しようと思った時だった。



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