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「由緒正しい名門、西園寺家のご息女さまが、使用人である私の孫と机を並べるなんて、とんでもございません!
身分違いもはなはだしく、本当に申し訳なく……っ」
「……身分違いって、今何時代よ?
しかも、宗樹の方が先に入学したんだから、机を並べることもないわよね。
むしろ、わたしが先輩って呼ばなくちゃ……」
「ご勘弁くださいませ!」
爺は、青ざめて叫んだ。
「我が藤原家は、代々西園寺に仕える執事の家系です。
私は、本宅の執事頭としてこのお屋敷をお守りするのが役目。
息子の宗次は、お嬢さまのお父上、旦那さまの専属秘書としていつも海外までご同行させていただいております。
そして、孫の宗樹もしきたりにもれず、高校を卒業してから海外の大学を経て執事養成校に入ると申しております。
そこで修行をし、一人前になることが出来れば、いづれ西園寺でお世話になることもありましょう。
が、現在は、何も知らない、ただの一般生徒でしかありません」
そこまで言って、爺は、肩を大げさにおとした。
「もし、万が一。
孫の宗樹がお嬢さまにご迷惑をかけることがございましたら、この宗一郎。
旦那さまにもご先祖さまにも、申し訳が立たず、死んでお詫びするしか……」
「……だから、いつの時代の話をしてるのよ。
爺のお孫さんが、わたしに迷惑をかけることなんて、あるわけないじゃない。
大丈夫よ!」
……むしろ、迷惑をかけるのって、こっちの方だったりして……なんて。
あんまり爺がさわぐから、心配性が移っちゃったみたい。
公立高校で、普通にできるかな? って頭をよぎった予感に、わたしはぶんぶんと首を振った。
大丈夫、わたしは出来る。
両手で、頬を挟むようにぱしぱしと叩いて気合いを入れると、メイドの田中さんに今日着る制服を出してもらって、爺を追い出しにかかった。
「さあ、今日から電車通学だし、早く着替えて出ないと!
爺、今日の朝食は、なに?」
「お嬢さまのお好きな、イタリア風トマト仕立てのスープと、舌平目のムニエル、ナッツドレッシングのサラダ、デザートでございます。
主食はご飯と、パンとスコーンから選べます……が、本当に電車通学なさるおつもりですか?
今まで、電車なんて一度もご乗車になったことはございませんでしょう?」
なんだか、爺が色々騒いでるけど、気にしない。
これから普通にやってゆくはずの高校に、ウチの車。
でっかいリムジン乗りつけてどーするのよ!
すべては特別扱い抜きで、皆と同じ方向で三年間、『普通に』楽しい高校生活を送ってやるんだから!
……ね?
……と。
心配する爺を勇ましく『行ってまいります』と振り切って、順調に行けたのは、近所の駅までだったのよっ!
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