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「いっ……いいのか?

 俺達をそんなに簡単に泊めて!」


 三人とも同じ気持を代表して言ったらしい。


 カラカラに乾いた宗樹の声と様子があまりに面白くて、わたし思わず笑って、手を振った。


「もちろん、みんなそれぞれゲストルームを用意させるから!

 どんなに、ねぞうが悪くてもCards soldierのイメージは崩れないから大丈夫よ~~」


「「「そんなんじゃねーや!!」」」


 三人がハモって何か言ってるけど、ま、いいや。


 それより、井上さんがわたしの袖をつんつん引っ張っている。


「……さっ、西園寺さんっ!

 明日は土曜日だし!

 わたしは是非、一度、こんなお屋敷に泊ってみたかったの!」


「そう! 良かった~~」


 早速お家に連絡する~~なんて。


 スマホを取り出した井上さんに手を振って、他の皆はどーする?


 って聞いたら、すぐに反応したのは、蔵人さんだった。


「もし迷惑じゃ無かったら僕も、是非」


「うぁ、こいつ速攻でノリやがった~~」


 こんのエロ野郎、なんて神無崎さんが茶化すと、蔵人さんは青い瞳をすぃ、と細めた。


「エロ野郎とは失礼な、ヤツ!

 大好きなヒトとなるべく長くいたいだけ、なのに。

 僕には英国紳士の血が半分流れて、いる。

 恥ずべきことは、その血にかけて絶対、しない」


「な~~にが英国紳士だ、莫迦野郎~~

 確かに半分は英国紳士でも、残りの半分は立派にけだものじゃね~~か!

 お前は、絶対。

 月夜に変身してあぉ~~んって鳴くタイプだ」


「なんだと貴様!

 その言葉今すぐ取り、消せ!」


 案の定。


 既にお約束みたいに始まった、神無崎さんと蔵人さんの強烈なじゃれあいに、宗樹は、頭痛をこらえるようにため息をついた。


「……ったく! どいつも、こいつも勝手なことを!

 蔵人が泊るなら、俺も泊るぜ、くそったれ!

 お嬢さんと真麻は、せいぜい自分の部屋にカギをかけて、朝まで誰も入れんなよ!」


 ……とかって宗樹も言い出したんだ。


 やったね♪ これで、みんなお泊まり決定♪


 いきなり、旅行に来たような、わくわく気分で盛り上がったまま。


 どーせ皆で泊るんだしって、ご飯の後も曲作りの仕上げをやれるだけやってみた。


 冷静に考えると恥ずかしーだの、コイツは気障男のセリフだの、と皆で笑いながら歌詞の候補をいくつか考えたりもした。


 そして、男子陣と別れ、井上さんと一緒に入ったお風呂から出た後だった。


「お休み~~また明日」


 なんて。


 食堂でお風呂上がりのアイスを食べて、井上さんをゲストルームに送って自分の部屋に戻ろうとした時。


 ぐっと照明を落とした廊下の窓から、月を眺める一人を発見したんだ。

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