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 ………


「ライアンハート先輩が……歌うの?」


 わたしの話に、マジで? って続きそうな勢いで、井上さんは目を丸くした。


 良く考えれば、Cards soldierとも軽音部とも無関係なわたしと、蔵人さんが、第三音楽室を使うんだもん。


 井上さんにあれやこれや説明してたら、まず、最初にビックリされちゃった。


「たっ……確かにさ、ライアンハート先輩、地の声『は』ステキよね」


『は』ってなによ『は』って~~


 何か、ものすごーーく引っかかる言い方で、井上さんは言った。


「ライアンハート先輩、一時期『雷威神』っていう暴走族の総長みたいなことやってたじゃない?

 本当は、雷威神って、一般生徒の夜間バイク走行集団だし。

 総長決めるのも喧嘩とかじゃなく、投票で平和的に決まったんだけどさ。

『総長』っていう言葉自体がカッコイイ! とかでさ。

 ライアンハート先輩の総長就任記念に、ウチのお兄ちゃんが曲を作ったんだよね。

 まぁ、せいぜいお兄ちゃんが作るヤツだし、そう、難しい曲じゃないはずなのに~~」


 その曲をライアンハート先輩がすごく気に入ってくれたのは、良いけれど。


 先輩の歌うデモテープを聞いた途端、本気で眩暈を起こしかけた、って井上さんは、言った。


『未来のネコ型ロボットが活躍する話に出てくる、歌好きなガキ大将を思い出した』って、ヒドくない?


 でも、こんなことは、言われ慣れているらしく。


 蔵人さんは困った天使の顔のまま。こめかみあたりをぽりぽり掻いている。


 挙句の果てに、蔵人さん、何だか自信無くなって来た~~なんて、言いだすし!


 わたし、そんな彼の肩をがしっと捕まえて、振ってみた。


「蔵人先輩が、音程拾えないことは、とっくに知ってますってば!

 今知りたいのは、同じ曲を正確に何度も繰り返すことが出来るか、ってことなんです」


 楽譜ありの歌の腕前は、誰もが知っているところなんだろうけれど、みんなはきっと、蔵人さんの本当の歌声を知らない。


「蔵人先輩の『歌』がステキなのは、わたしが知ってますから。

 だからさっきの歌を、もう一度、ここで」


 歌って、ください。


 そう言って、蔵人さんを見上げれば、彼はわたしをその青い瞳で見つめ返し……少し迷って、うん、とうなづいた。


 そして、歌う。


 少し静かな優しい、優しい歌を。


 これは、今日初めて聞いた方の『大好き』が詰まった歌だ……!


 わたし、さっき海の見える通学路でこの歌を何回か、聞いてるし。


 次に、どんな音が来るのか予想できたから、音程確かめるついでに、ざっとピアノで伴奏をつけてみた。


 蔵人さんの声に合わせて、思うままにピアノのキーを叩いてみると、歌と曲に載せて思い浮かぶのは、宗樹のコトだった。

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