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 いい加減にしてください! もう後が無いんでしょ!? なんて。


 ぽんぽん叫ぶ、井上さんの声に、蔵人さん特に怒りもせず……それどころか、今にも扉を蹴り破ろうとしていた足を下げ……


 あ、蔵人さん。


 腹黒ライオンから、困った天使の表情かおに戻った。


 これって、もしかして!


「……えっと、井上さんと蔵人さんって、だいぶ前からお知り合いだったんですか!?」


 聞いたわたしに、蔵人さんはうなづいた。


「知り合いもなにも、ない。

 このコ井上奏太の、妹」


「イノウエ カナタ?」


 初めて出て来た名前に首を傾げれば、蔵人さんは、ああ、そうか、ともう一度うなづいた。


「……スペード・エースの、妹」



 えええええええっっっ!!!



 スペード・エース!



 君去津高軽音部№1バンド。Cards soldierのヴォーカルだった人で、作曲担当。


 このヒトが『事故』でバンドから抜けちゃったから、メンバーを補充するのしないのでモメた張本人の……妹。


 そっか。


 だから、なんだ。


 井上さんが、妙にCards soldierに詳しいのも!


 入学してから、まだ数日なのに第三音楽室の鍵を持っている上、慣れてる感じがしたのも。


 ……実際に、宗樹や神無崎さんと顔合わせしたかどうかはともかく。


 文化祭や発表の日とかで、お兄さんのスペード・エースについて、この部室に来たことがあるに違いない。


 そしてマネージャーになった『コネ』って言うヤツ!


 あれは『クローバー・ジャックの幼なじみ』って言うふれこみのわたしに頼ったたんじゃなく。


 自分自身の『スペード・エースの妹』って言うコネを使ったんだ!!


 なんだか……もうヤダ。


 わたしばっかり空回りしてるんじゃないよ!


「え~~ん、井上さん、やっぱり良い人だったんだ~~」


「なっ、なによ~~西園寺さん、急に~~」


 色々疑ってごめんねぇ、なんて気持ちで、井上さんにぱふっと抱きついた。


 わたし、井上さんも、宗樹も。蔵人さんに、神無崎さんも……なんか、みんな大好きだ。


 みんなの役に立つことしたい。


 だから、わたしは自分に出来ること……そして、多分。


 わたしにしか出来ないことを、頑張ってみたいんだ。

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