48

 海岸でものすごくいい声を出していたから、本人の謙遜か、何かの間違いだと思ったのに。


 信じられないって聞いたら、宗樹は「それはもう、破壊的に」と言って肩をすくめた。


「蔵人のしゃべり方、独特だろう?

 アレ、別にあいつが外人の血が混じってるから、日本語の発音が得意じゃない、って言うわけじゃねぇんだよ。

 普通会話するにも、ヒトは無意識に音程を取っているもんだけど、そんな些細な音の高低差も蔵人には判らねぇ」


「……ウソ。

 それって、一般的な音痴のレベル、超えてない?」


「本当。

 ちょっと普通じゃねぇけど……蔵人もワケあり、だから」


 ……ワケあり、だからこそ。


 蔵人もCards soldierを自分の居場所だってすごく大事にしてくれてた。


 俺達にとっても、蔵人はバイクチーム雷威神のリーダーで、Cards soldierのメンバーを引き合わせてくれた張本人だし。


 音楽が全く出来なくても、Cards soldierが演奏出来る場所を人一倍探して来てくれる蔵人の存在を無視したくなかったんだ。


 そう言って、宗樹は、明日世界が終わるようなため息をついた。


「それからのことだ。

 あと一人、音楽出来るヤツが加わって、Cards soldierが軌道に乗って来た所で……例の事故が起きた」


「……宗樹」


「アンチリア充、ってのが名目の、クリスマス走だったからなぁ。

 バンド活動して、女のコから騒がれる事は多くても、Cards soldierメンバーには夜一緒に過ごす本命はいないとかで、結局全員参加。

 他の主だった雷威神メンバーもほぼ集結した、結っ構~~大規模な集会だったんだけど。

 いつもの海が見える峠の道でバイクの集団走行をしてたら、酔っ払い運転の車に突っ込まれたんだ」


 言って、宗樹は形の良い眉を寄せた。


 その時は、蔵人さんが先陣を切って走り、宗樹がそのサポートをする形でバイクの大集団を率いてたからトラブルの現場に戻れず。


 お酒に酔って暴走する危険車との回避作業には、遊撃隊長みたいな神無崎さんと、そのサポートのスペード・エースがあたってたらしい。


 どうやら無事に、雷威神のメンバーを全員逃がしてほっとしたところで、車が改めて神無崎さんめがけて突っ込んできて……


 神無崎さんを庇ったスペード・エースが、事故に巻き込まれ、怪我をしたんだって。


 ……でもね。一番の問題は。


 ただ『事故に会った』だけじゃ済まない所にあったみたいなんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る