うそつき執事の切ない傷
46 うそつき執事の切ない傷
やっぱり、電気の接触か何かが、悪いらしい。
ついたり消えたりする、蛍光灯に照らされた宗樹の整った横顔には、今はもう、何の表情も浮かんでなかったけれど。
朝からあった、顔の傷が目立って見える。
どうしてこの傷はついてしまったのだろう?
ご先祖様からの約束に、がんじがらめに縛られている宗樹が、自分の意志で何かと戦って出来た傷だったらいいな。
けれども、もし、辛い事があってその先に、この傷がついちゃったのなら……どうしよう!
「なんだよ?」
わたし、宗樹の顔をじっと見過ぎてたみたい。
けげんな顔で眉を寄せる宗樹に「ううん」と首を振りかけ、声をかけた。
「そう言えば、宗樹の顔の傷ってどうしてできたんだっけ?」
「……それ、聞く?」
「だって、宗樹は自分から誰かを殴りに行くタイプじゃないんでしょう?
むしろ、蔵人さんが体育館に乱入して来た時は、止めてたし!」
朝、駅で別れたときだって、全部話が出来なかったけど。
別に宗樹がちゃんとしてなくて出来た傷だとは……悪いことをして傷を作ったんだなんて思って無かったよ、って。
やっと伝えられた言葉に、宗樹は「そか」と、息を吐き、空を見あげた。
「……結果だけを言えば、裕也と蔵人に殴られたんだが」
「えっ!
だって、蔵人さんはともかく、神無崎さんて、オトモダチでしょう?
どうして殴られるの!?
もしかして、いじめ……」
「ねぇな、それだけは」
ビックリして聞き返したら、宗樹は肩をすくめた。
「慌てんな。
別に二人がかりで、俺を一方的にやったわけでもねぇ。
やられた分は、しっかり殴り返しておいたし。
こんなモノ!
特に意味もねぇ、何時もやってるあいさつ代わりみたいなもんだ。
……でも、まあ。今回に限って理由をつければ、音楽の方向性をカタっているうちに熱くなり過ぎた、ってヤツ?」
「あ……もしかして、抜けたスペード・エースの代わりを探すっていう……」
「そう。その話がこじれてな~~」
宗樹がうなづいた時、丁度わたし達が乗る電車がやって来た。
彼は、当たり前のようにわたしの手を取って、電車に乗り込む。
そして、空いている電車の奥にわたしを座らせ、自分は、扉側に陣取った。
二人で隣同士に座ったから、宗樹の顔が今までで一番、近い。
だから、口元にある傷も、また近づいた。
キレイで、カッコ良くて……痛々しい。
そんな宗樹から目を離すことなんて、出来なくて。
じっと見つめていると、彼は困ったように笑った。
「……そう、見んなよ」
「だって、なんだか心配なんだもん」
自然に出て来たわたしの声に、宗樹は「仕方ねぇなぁ」とつぶやいて、静かに話を始めた。
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