吸血鬼は決して惡を望まない
翼 侑希
第3話忍びよる光
屋敷が久しぶりの和やかな空気に包まれていた頃、ミルーユ王国の宮殿ではある重大な発見があり、その宮殿の中に入った者は皆深刻な顔をしていた。
「陛下。こちらの本に憑いていた呪いなどは宮殿魔術師ローゼンが取り除いたとの事です。」
サンドグラスが月明かりに照らされて様々な色を映し出す国王の自室で国王よりやや年上と思われる側近が埃をかぶっていたのか、かなり古びて文字すら読めない分厚い本を国王に差し出した。
「そうか。……魔術師ローゼン、あの薔薇魔術を受け継ぐ一家の者。」
「えぇ。我が国では今のところローゼン家が一番呪いにまつわる事に関して詳しいとのこと。ですので先代様も彼らを絶大的に信頼しておりました。」
その言葉を聞くなり国王は何か悩むそぶりをして、分厚い本を見つめていた。
事の発端は先日のことである。王宮の地下室に眠る伝説の書。それは一年前に亡くなった前国王が探し求め続けたという。しかし、その書は見つからず、とうとう国王も他界し、その国王の意志を継いだのが今の国王である。彼は前国王の一人息子であり、幼い頃から父が何を追い求めたのかをずっと見続けていた。だから、父が他界したその時から毎日のように地下室に通い、伝説の書を探し求め続けた。
そしてようやく先日見つかったのが今、国王と側近の目の前にある分厚い本ということだ。
「はぁ。それにしてもこれ、本当にお父上が追い求めたあの書なのか?」
国王が顎を手で撫でらがら側近に問う。
「えぇ。確かな確信はありませんが、中身の文字を読む限りでは。」
ほぅ。と国王は側近の言う本を開いて中身の文字を確認するが、字体が古すぎて読めなかったのか、眉をひそめ本から身を引いた。
「…で、この本の書かれていることはわかっているのか?」
「その事についてですが、とある学者が解読可能だという事です。」
「とある学者…ジルベルトか?」
「…はい。」
その答えに国王は頭を抱えた。
その時、
「はーい、はいはいはいはいっと。誰もをを魅了しちゃう輝きアーンド美貌を纏ったジルちゃん登場よっ♡」
と、見るからにやばそうな雰囲気を醸し出している赤髪の男?が国王の自室という事を忘れさせるくらいの勢いで入ってきた。
「はぁ…」
国王はさらに頭を抱えた。
「あっ!リュミちゃん、久しぶり〜♡」
「う゛っ」
そう言って国王に愛称呼びで抱きついた。しかも国王より大柄なので抱きついた方はかなり苦しそうだ。
「ジルベルト、国王に対してそのような行為を慎めと言っているだろう。」
「え~フォル堅いよぉ~」
「ぐええぇぇ。」
さらに国王が締め付けられる。
「あ、ごめんごめんっ♡おねえさんのあっつーい胸板がリュミちゃんを締め付けちゃったみたいね♡」
と、すぐに国王から離れた。
「はぁ…俺が抵抗しないのをいいことにいろいろしやがって…」
「あら、もしかしてリュミちゃん、照れちゃって~♡」
「ちがっ!」
「ごほん…ジルベルト、聞きたいことがあるのだが、いいか。」
「!! なあに~?あなたから私に話しかけてくるなんて嬉しいわぁ~♡」
「…この書について、なのだが。」
その言葉が部屋に響いた瞬間に二人は顔を引き締めなおした。
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