口下手同士が恋したら

@happypappy

第1話 出会い

木田武が林小夏に会ったのは、横浜駅のカフェだった。

その日は友達と待ち合わせをしていたにも関わらず「合コン行ってくるわ!」という謎なメールでドタキャンされ、そのまま帰るのも虚しいので怒りを胸に感じつつもカフェに入ったのだ。

なんであんなやつと友達やってんだ…と、馬鹿な親友の顔を思い浮かべつつ、カフェのドアの前に立つ。ドアがなかなか開かなくて、疑問に思って我に帰る。これは自動ドアじゃないと気がついたのは15秒後。15秒間、ドアの向こうの店員がニヤニヤしながらこっちを見ていた。

武は帰りたくなったが、ここで帰るのも格好が悪い。こんなことにも動じないカッコ良い男を装いながらドアを押した手は少し震えていた。

「こちらでお召し上がりですか?」

と聞いてくる、カウンターの向こうの店員の女性。

「はい」

「あ、お持ち帰りですか?」

声が小さすぎて二度聞かれる。恥ずかしくてやっぱり帰りたくなる。

「あ、こ、ここで」

「ご注文は」

「ココアのMサイズ…」

「かしこまりました」

出てきたのはココアのSサイズ。そして持ち帰り用の紙カップ。

武はウンザリしながらカップを受け取り空いている席を探した。

休日の昼間という時間で、店内は混雑していた。席は大体埋まっていたが、窓際のテーブルは空いていた。一人用のテーブルに、椅子が2つ。そこにしようと持っていたカップをテーブルに置いた時、コン、という音が2つ聞こえた。

その時武と同時にカップをテーブルに置いたのが、小夏だった。

金髪の長い髪に、制服姿の小夏は武とは対照的だった。身長も、武より少し高い。165cmくらいだろうか。

「あ?」

小夏はギロリと武を睨みつけた。

どうする、ここは先に僕がとったんですけどとか言うか?それとも男らしく席を譲るか?一番かっこいい方法を模索しているうちに武は思考停止する。

小夏も武を見つめながら固まっている。

「あ、あのここは先に僕が良かったらここどうぞ!」

と、武。

あー俺何言ってんの自分で自分が分からない!と心の中で悶絶するももう時は既に遅い。小夏が変なものを見る目で武を見つめていた。

「しらねーよ、私が先だし、お前が使えばいいんじゃね」

と小夏。

訳が分からず武は硬直する。

俺はここを使っていいの?使ったら速攻で殴られそうなんですけど何かのトラップですか?座った瞬間まじこいつ空気読めねーわKWですわとか言われる奴ですか。そして後から女の子の友人が来て2人に遠巻きに馬鹿にされるアレですか。ホント逃げたいどうしよう。

とか考えている間、小夏はずっと黙ったまま目を泳がせていた。

相手が席を譲ってくれるのをお互い期待しながら、沈黙の数秒間を耐えた。唇がヒクついて奇妙な笑顔が完成する。緊張しすぎて頭が回らない。

が、いつまで経ってもお互い話し始めない。

見た目は真逆だが、もしかしてこれは同類じゃないか…?と武が思ったのも束の間、小夏は顔を真っ赤にしてコーヒー片手に店を飛び出していった。

店内用の白いマグカップを片手に。

「お客様、それは店内用のマグカップで…!」

慌てて小夏を追いかけていく店員を窓から見つめながら、武はそっと椅子に座った。

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