八 投票

 三日後、トンガリ王国民は広場に集められた。広場に入りきれず、王都の大通りや主要な建物の屋根までもが人で埋まった。

 アンポンタンと合流してから三日の間、アダムたちは東奔西走して実に様々な諸問題にカタをつけた。まずトンガリ王国軍をデップリ王国から撤退させ、捕らえられていたデップリ王国民を解放。焼け出されたデップリ王国民は全てトンガリ王国に移住させ、トンガリ王国の民をガニマタ王国までピストン輸送するための飛行船をプリンプリン博士に建設させた。

 そして国の各所に設置されていた電波装置を破壊して国民の洗脳を解き、アンポンタンが飛び散らせたアイスィンクソウの胞子が芽を出さぬよう処理。それと同時進行で、トンガリ王国上層部が今までに行ってきた悪事を全て記録したのだ。

 当初はデップリ王国の民をガニマタ王国に移住させる予定であったが、女王が健在であり、逆にトンガリ王国の上層部は失脚してしまったので、トンガリ王国民のほうを全てガニマタ王国に移住させることとなった。国土が焼け野原になったデップリ王国の土地が回復するまでは、デップリ王国民はトンガリ王国の土地で暮らすのだ。

「それでよいか」とアダムは女王に尋ねた。

「うむ」

 女王は大きく頷いた。

「またデップリ王国の地に戻ることを楽しみにしつつ、我らはここトンガリ王国の地で暮らしてゆくことにしよう。デップリ王国の地が回復したら、私はトンガリ王国とデップリ王国とを併合する。そしてケンコーランドを復興させ、正式にケンコーランド八代目女王を名乗るのだ。ガニマタ王国と繋がるパイプラインの建設も進めなくてはな」

「よし、いいだろう。では裁判に行こうか、あやつらをいつまでも国旗掲揚台に引っ掛けておくわけにもいくまい」

 広場では、再び国旗掲揚台に引っ掛けられたトンガリ王国上層部の七人が国民から冷たい目線を向けられていた。

 アダムが改めて登壇し、トンガリ王国民にはガニマタ王国に移り住んでもらうこと、実は今まで洗脳されていたこと、散々悪事を働いたトンガリ王国の上層部に与える罰をこれから決定すること、などを話した。

「では裁判を始める。まずはこれを見てもらいたい」

 アダムは国中のプリンターを総動員し、トンガリ王国上層部が手を染めてきた悪事の一覧をA4サイズの紙に両面プリントアウトし、国民全員に配布した。両面にも関わらずその紙は五枚にも及び、積み上げてきた悪事の多さに国民一同皆目を剥いた。

 ほぼ全員が目を通し終わった頃、改めて呼びかける。

「トンガリコーン十六世、そして大臣六名。この内容に間違いはないか」

「ないです」

「では、この者たちは有罪ということで異論ないな。国民を蔑ろにし、それどころか洗脳という卑劣な手段まで用いて王座に君臨したこやつらの処分をどうするか。民主主義国家らしく、投票で決めることとしよう」

 二十歳以上の国民全員に投票用紙と鉛筆が配られた。

「では、①から④の中から選んで丸をつけてくれ」

  ①無罪放免

  ②磔刑

  ③無期懲役

  ④増えるワカメの刑

「書き終わったら回収する。係の者に渡してくれ」

 こうして数万枚という膨大な量の投票用紙がアダムの手元に集まった。

「では開票に移る。③、②、④、④、②、③、②、④、④、⑥? 誰だ⑥なんて書いたのは……④、③、④、②、③、③、②、④、④、④、……」

 途中でアダムの声は枯れ、アンポンタンが引き継いだ。そのアンポンタンの声も枯れるとコクド・チリーンが受け継ぎ、その間にアダムは必死で浅田飴を舐めまくり、喉の回復に努めた。開票は昼夜を徹して行われ、夜になると国民は皆その場に立ったまま眠りこけ、開票するほうも同じものを何度も数えたり間違えて破ってしまったり、そもそも暗くて用紙が見えなかったりと散々だったのだが、とうとう太陽が沈んでまた昇った次の日の真昼時、ようやく開票は終わった。

「では、結果を発表する」

 アダムがガラガラ声で叫んだ。限度を超えて浅田飴の服用を続けたアダムの声はもはや別人28号であった。

「①が五票、②が一万五千六百飛んで七票、③が四千三百八十一票、そしてなぜか⑤が十票、⑥が二十票。選択肢は④までしかないというのに。その他「アダム」が五票、「シリム・チーリ」が百七十二票、「コクド・チリーン」が十二票、「女王」が三百五十票……誰だ人気投票だと勘違いした奴は。そして最大得票、④が三万七千九百十五票。決定! よってこの七人は④増えるワカメの刑である」

 トンガリ王国国王トンガリコーン十六世と六人の大臣は悲鳴を上げた。

「どうか増えるワカメだけは!」

「それだけはやめてくれ!」

「ワカメは嫌だ、ワカメは嫌だああ」

「後生だから、ワカメだけは!」

「他のことなら何でもするから!」

「いっそ殺してくれ!」

「ご無体な!」

 口々に喚き散らす七人だが、もはや逃れるすべはない。国民の総意である。国中から乾燥ワカメと水が調達され、積み上げられていく。増えるワカメの刑は極めて迅速に準備が整えられ、そして、国民が固唾を飲んで見守る中、粛々と実行された。

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