十五 食い違い
「私と共に来てくれないか」
アダムはイヴの目を見つめた。
「イヴさん、あなたは私(の新国)にとって必要な存在だ。いや、あなたなしでは私(の新国)はやっていけないだろう。一緒に来てくれ」
「えっ、えっ、えっ」
イヴは頬を真っ赤に染め、落とした食器を拾おうとして机の角に腰をぶつけてひっくり返った。
「大丈夫ですか」
慌ててアダムが差し伸べた手を掴み、起き上がろうとしたイヴは自分の掴んでいるものがアダムの手であることに気づき、ぎゃっと叫んだ。
「ごっごめんなしあ」
そして噛んだ。
「私、その、殿方にそのようなことを言われるのは初めてなのです。あまりにも急すぎます。考えさせてください」
「それもそうだ。急なことですまなかった」
そして二人は気まずい沈黙の中で昼食をとった。これは脈なしかと思ったアダムが帰ろうとすると、イヴはそれを引き止めた。
「あの、何にしてもまずはお互いのことを知らねばなりませんので、投げ槍でもして遊びませんか」
投げ槍とはデップリ王国内で盛んな競技である。後ろ向きの状態で多重同心円に向かって槍を投げ、輪の中心近くに刺さるほど点が高くなる。刺さらなければ得点にはならない。これから派生して、何も見えない状態であてずっぽうに物事を行うことを俗に「投げやりになる」と言う。
「私は強いぞ。イヴさん、あなたに勝てるかな」
こうしてアダムとイヴは一日中「投げ槍」で遊び、少し打ち解けた。日が沈み、競技の続行が不可能になったので、イヴはアダムを家に招き入れた。
「今日は泊まっていってくださいな。夜は切り札でもしましょう」
切り札とは、デップリ王国で盛んな遊びである。札を十枚持ち、相手は違う色の札を十枚持つ。それを場に出して合計二十枚を混ぜ合わせ、裏返しにする。裏は同じ色であり、その中から交互に札を引いていき、引いた札がもともと持っていた色であればそれは自分のものとなる。しかし、相手の色を引いてしまった場合は山に戻さねばならぬ。最終的に取った札が多い方が勝ちである。これから派生して、自分の札をこっそり持っておいて点数計算のときに付け足すことを「切り札を隠し持つ」と言うが、これは反則行為であるため、これを行った者は俗に「札付きのワル」と呼ばれて忌み嫌われる。
「いいだろう。私は切り札も強いぞ」
こうしてアダムとイヴは一晩中切り札で遊び、かなり打ち解けた。
次の日の朝、イヴはアダムに申し出た。
「あなたについていきます」
驚いたのはアダムである。
「本当にいいのか」
「はい。私のように醜い女を(妻として)もらってくださる方は他にいないでしょうし、あなたと遊んでいるうちにあなたの人柄もわかりました。私が(妻として)一生を捧げるに相応しい人だと判断いたしました」
「そうか、かたじけない」
アダムはふと思い立って剣を抜き放ってみた。これでアダムの部下はさらに増えたはずであり、ということは剣身の文字が虹色に光り輝くはずなのだ。しかし、なんということだろうか。その剣身の文字「かりかりばー」は虹色ではなくピンク色にてらてらと光っていたのである。
「その剣身の六文字、桃色に光り輝くとき」
「王たる者の伴侶、その身を以て王に捧げ」
「天と地と神と己とに永遠の愛を誓うなり」
どこからか現れたアンポンタン三兄弟がそう叫びながら踊り狂い、天はまた室内にも関わらず祝福の太陽光で二人を照らし出した。ここでアダム、イヴを部下としてではなく妻として連れていくのだということにやっと気づき、今更ながらに頬を染めた。
「いや、私はそんなつもりは……」
ごにょごにょと言いかけたアダムは、ふと気がついた。このイヴという娘と共に過ごしている時間は、とても楽しく、幸せであったことに。思えば自分の人生でこのように無心に遊んだことが一度でもあっただろうか、とアダムは自問した。
アダムの脳内を、今までの人生が走馬灯のように駆け巡った。
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